「このあたりは新しい家がどんどん建っているのに、うちの実家だけ古いままで」

糟屋郡に実家がある方から、よくうかがう言葉です。

宇美町・篠栗町・志免町・須恵町・新宮町・久山町・粕屋町。福岡市の東に隣り合うこの7町には、あわせて23万人あまりが暮らしています。多くの地域が人口を減らすなかで、住まいを必要とする世帯が増えてきた地域にある実家。だからこそ、他の地域とは事情が違います。ただし令和7年の国勢調査(速報)では、7町の数字が同じ方向を向かなくなりました。そこも含めて見ていきます。

糟屋郡の実家は、九州のなかでは「売れない心配」が小さいほうです

まず、いちばんお伝えしたいことから。

実家の相談で多いのは「こんな古い家、買い手なんてつかないのでは」という不安です。ですが糟屋郡に関しては、その心配は九州のほかの地域にくらべればかなり小さいほうです。ただし、7町のあいだでも差があります。

糟屋郡7町を合わせた人口は232,797人です(令和7年国勢調査の速報値。2026年9月22日確認)。粕屋町・新宮町・久山町は、かつて県内でも人口増加率の高い町として名前が挙がってきました。ただし令和7年の国勢調査(速報)では、7町の数字の形が分かれています。くわしくは次の章で見ます。

博多・天神へ出やすく、福岡空港も近い。それでいて福岡市内より住宅を持ちやすい。この条件が、買い手を途切れさせていません。

つまり糟屋郡の実家は、多くの地域にくらべれば価値が落ちにくい代わりに、放っておく理由もない地域にあります。

令和7年の国勢調査(速報)では、7町の形が分かれました

ここまで「糟屋郡は住まいの需要が続いている地域」という見方で書いてきました。その見立てが最新の調査でどうなっているかを、先に確かめておきます。

福岡県が公表した「令和7年国勢調査集計結果(速報)」(令和8年5月29日公表。2026年9月21日確認)によると、福岡県全体の人口は5,081,879人で、令和2年から53,335人(1.04%)減りました。昭和45年の調査以降ではじめての減少です。いっぽうで世帯数は2,401,053世帯となり、77,728世帯(3.35%)増えています。なお、これは速報値です。県のページには、確報値が令和8年9月に公表される予定と書かれています。

この県全体の形に対して、糟屋郡7町の数字は次のようになっていました。

町人口の増減率世帯の増減数世帯の増減率1世帯当たり人員
宇美町1.15%減388世帯増2.75%増2.57人
篠栗町0.31%減503世帯増4.11%増2.44人
志免町2.09%減764世帯増4.02%増2.30人
須恵町1.54%増526世帯増4.81%増2.53人
久山町2.19%増196世帯増5.98%増2.67人
粕屋町0.66%増1,344世帯増6.75%増2.28人
新宮町2.22%減142世帯減1.14%減2.61人
(福岡県計)1.04%減77,728世帯増3.35%増2.12人
福岡県「令和7年国勢調査集計結果(速報)」表6より。令和2年調査との比較(2026年9月21日確認)

人口が増えたのは須恵町・久山町・粕屋町の3町です。宇美町・篠栗町・志免町・新宮町の4町は減りました。7町をひとまとめにして「人が増えている郡」と呼ぶ言い方は、この調査では当てはまらなくなっています。

世帯数が減ったのは、7町でただ1町でした

ところが、表の右から3列目(世帯の増減数)を見ると、印象が変わります。世帯数が減っているのは新宮町だけで、残る6町はすべて増えているからです。

実家の「次の住み手」を考えるときに効いてくるのは、人口より世帯数のほうです。家は人単位ではなく、世帯単位で借りたり買ったりするものだからです。人口が減った宇美町・篠栗町・志免町でも、世帯数は2.75%から4.11%の幅で増えています。この3町では、人は減っても住まいを必要とする世帯は増えている、ということになります。

新宮町だけは、人口(2.22%減)も世帯数(1.14%減、142世帯の減少)もそろって減りました。なぜそうなったのかは、速報の数字だけからは分かりません。分かるのは、糟屋郡のなかで新宮町の数字の形だけが他の6町と違っている、ということです。

ご実家が新宮町にある場合、この記事の前半で書いた「売れない心配はかなり小さい」という見通しは、そのままでは当てはまらないことがあります。ただし、町全体の数字と、ご実家がある地区の事情は別のものです。駅からの距離、土地の広さ、道路付けで条件は変わりますので、数字だけで決めつけないでください。

糟屋郡は、県の統計では2つの圏域に分かれています

もうひとつ、糟屋郡の数字を読むときに引っかかりやすいところがあります。

福岡県は県内を15の「広域地域振興圏」に分けて集計しています。糟屋郡7町は、この区分では1つにまとまっていません。宇美町・篠栗町・志免町・須恵町・久山町・粕屋町の6町でちょうど「糟屋中南部圏域」になり、新宮町だけが宗像市・古賀市・福津市と同じ「宗像・糟屋北部圏域」に入ります。

そして速報の「概要」には、人口が増えている圏域は福岡市圏域・宗像・糟屋北部圏域・糸島圏域の3つだと書かれています。新宮町が属しているのは、この「増えている」と書かれたほうの圏域です。もちろん圏域の数字には新宮町も含まれています。ただし宗像市(50人減)・古賀市(436人減)・新宮町(732人減)の減少を、福津市の2,031人増が上回ったため、圏域全体では813人(0.32%)の増加になりました。町ごとの動きは、圏域計の行を見ているかぎり表に出てきません。

逆に、6町が属する糟屋中南部圏域のほうは、人口が0.27%減るいっぽうで、世帯数は3,721世帯(4.68%)増えています。

つまり糟屋郡の実家については、圏域の数字を見てもご自分の町のことは分かりません。県の資料を開くときは、圏域計の行ではなく町の行を探してください。

世帯の大きさにも触れておきます。1世帯当たりの人員は、久山町が2.67人で、大木町と並んで県内でもっとも多くなっています。同じ郡でも粕屋町は2.28人で、福岡県全体の2.12人に近い数字です。隣接する福岡市は1.88人で、県内でもっとも少なくなっています。ご実家のある町がどちらに近いかは、家の広さや間取りを考えるときの手がかりになります。

この章の数字は、福岡県が公表した令和7年国勢調査速報(福岡県分)に掲載されている表をもとにしています(2026年9月21日確認)。新宮町が入っている圏域を、宗像市・福津市の側から見た記事もあります。圏域全体の形は宗像市・福津市の実家、売る?貸す?築年数とエリアで変わる事情をご覧ください。この記事では、あくまで糟屋郡7町の並びのなかで新宮町を見ています。

ところが、7町のほとんどに空き家バンクがありません

ここが糟屋郡の特徴です。

国土交通省がまとめている全国の空き家・空き地情報サイトのリンク集で糟屋郡を見ると、独自の空き家バンクを掲載しているのは宇美町と、新宮町(相島=離島向け)だけです。篠栗町・志免町・須恵町・久山町・粕屋町の名前はここに載っていません。

これは自治体の怠慢ではありません。空き家バンクは本来、放っておくと買い手がつかない地域で、行政が間に入って移住者とつなぐための仕組みです。住まいを必要とする世帯が増えていて、普通に売買が成立している糟屋郡では、行政が仲立ちする必要は、他の地域にくらべれば薄いと考えられます。これは公的な資料に書かれていることではなく、制度の成り立ちと地域の数字から私たちがそう見ている、というものです。

ですから糟屋郡の実家については、「まず空き家バンクに登録して待つ」という進め方はあまり向いていないと考えています。通常の売買・賃貸のルートに乗せたほうが早く動きやすい、というのが私たちの見方です。

念のため、確認先も挙げておきます。

それでも糟屋郡の実家が止まってしまう3つの理由

条件は恵まれている。それなのに動けない。理由はたいてい、不動産の外側にあります。

理由1:町ごとに窓口がバラバラで、どこに聞けばいいか分からない

糟屋郡は7つの町の集まりです。市であればひとつの窓口で済む話が、町ごとに担当課も制度も分かれています。「隣の町では相談会をやっていたが、うちの町にはない」ということが普通に起こります。

相談先を探す段階で力尽きてしまう——これは糟屋郡でとくに起こりやすい詰まり方です。

理由2:親がまだ元気で、話を切り出せない

いちばん多い理由です。「まるで親の最期を待っているようで言い出せない」とおっしゃる方は少なくありません。

ただ、認知症などで判断能力が低下すると、ご本人名義の不動産は原則として売却できなくなります。成年後見制度を使うことになり、手続きも時間も一気に重くなります。親御さんが元気なうちに一度話しておくことが、結果的にご家族全員を守ります。

理由3:資産価値があるぶん、きょうだいで折り合わない

糟屋郡ならではの詰まり方です。

値段がつかない実家なら「じゃあ誰かが引き取るか」で話が終わることもあります。ところが糟屋郡の実家は、それなりの資産になります。金額が見えるからこそ、分け方で意見が割れる。

私たちの経験では、こうした対立の正体はお金そのものより「思い出の家を手放す決断をした人」という役回りを誰も引き受けたくないことにあります。第三者を入れて選択肢を全部並べるだけで、話が動き出すことがあります。話がまとまったあとの書面については遺産分割協議書は自分で作れる?書き方と注意点もご覧ください。

相場を自分で調べる3つのステップ

「まず自分で相場感をつかみたい」という方へ。無料で、その日のうちにできます。

ステップ1:国土交通省「不動産情報ライブラリ」で実際の取引価格を見る

国が公表している実際の成約価格のデータベースです。不動産情報ライブラリで市区町村・地区・築年数を絞り込めます。売り出し価格ではなく「実際に売れた値段」なので、いちばん実態に近い数字が分かります。

ステップ2:ポータルサイトで「いま売りに出ている物件」を見る

SUUMO・HOME'Sなどで、実家と同じ町・同じ校区・近い築年数の物件を探します。ステップ1が「過去に売れた値段」、ステップ2が「今の売り出し価格」。この2つを見比べると、相場の幅が見えてきます。

ステップ3:固定資産税の納税通知書を確認する

毎年届く納税通知書に「固定資産税評価額」が載っています。土地の実勢価格は、この評価額のおおむね1.1〜1.2倍程度が目安とされることが多いですが、あくまで参考値です。

この3つで分かるのは「だいたいの幅」です。同じ校区・同じ築年数でも、間口・道路付け・境界の確定状況・再建築の可否で価格は数百万円単位で変わります。最終的には現地を見ないと分かりません。ただ、幅を知っているだけで、その先の話がずっとしやすくなります。

売る以外の選択肢も、糟屋郡なら現実的です

住まいの需要が続いている地域なので、「売る」以外の道も検討する価値があります。

  • 貸す:子育て世代の賃貸需要があります。リフォーム費用を回収できるかが判断の分かれ目です
  • 建て替えて活用する:土地に需要がある地域なので、更地にしてからの選択肢が広いです
  • 当面は保有する:価値が落ちにくい地域なので、急いで手放さない判断もあり得ます。ただし管理と固定資産税の負担は続きます

どれを選ぶかは、ご家族の状況と実家の条件しだいです。大事なのは「売る/残す」の二択で争わないことです。

まず何から手をつけるか

順番に迷ったら、この3つからです。

この3つが済んでいれば、専門家に相談したときの話の進み方がまったく違います。

まとめ:糟屋郡の実家は、動けば選択肢が多い

糟屋郡の実家は、九州全体で見ればかなり恵まれた条件にあります。世帯数が増え、買い手も借り手もいる。問題は「まだどうにかなっている」時間が長く続いてしまうことと、町ごとに窓口が分かれていて最初の一歩が見えにくいことだけです。

実家ラボは、福岡・九州の実家について、相続の整理・空き家の活用・売却・民泊運営までをひとつの窓口でご相談いただける場所です。運営しているのは福岡市の不動産会社なので、相談から実行まで同じチームで対応できます。

そして私たちは不動産会社ですが、だからこそ「売らないほうがいい実家」があることも知っています。売却ありきのご提案はいたしません。


よくある質問

Q. 糟屋郡には空き家バンクがありますか?

A. ほとんどありません。どの町にあるかと、その読み方は、本文の「ところが、7町のほとんどに空き家バンクがありません」の章にまとめています。

Q. 糟屋郡の実家、売却で困ることはありますか?

A. 住まいを必要とする世帯が増えている地域のため、「売れない心配」は他の地域にくらべて小さいと考えられます(町ごとの数字は本文の表をご覧ください)。ただし町ごとに窓口がバラバラで、どこに相談すればいいか分かりにくい点が実務上のハードルになります。

Q. 売却以外の選択肢もありますか?

A. あります。資産価値がある地域のため、賃貸や活用など売却以外の選択肢も現実的に検討できます。

Q. きょうだいで意見が分かれやすいのはなぜですか?

A. 資産価値があるぶん「どう分けるか」「誰が引き継ぐか」で意見が割れやすいためです。まず相場を自分たちで調べ、事実ベースで話し合う準備をしておくと折り合いやすくなります。

Q. 糟屋郡は、いまも人口が増えているのですか?

A. 7町すべてではありません。町ごとの増減は、本文の「令和7年の国勢調査(速報)では、7町の形が分かれました」の章に表でまとめています。

Q. 新宮町の実家は、ほかの町より売りにくいのでしょうか?

A. 町全体の数字の読み方は、本文の「世帯数が減ったのは、7町でただ1町でした」の章にまとめています。町の数字と、ご実家がある地区の事情は別のものですので、あわせてご覧ください。

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