「実家まで車で30分。いつでも行けるから、まだ大丈夫」
春日市・大野城市・太宰府市に実家がある方から、よくうかがう言葉です。
福岡市内にお住まいで、実家は同じ福岡都市圏。遠方に住んでいる方に比べれば、はるかに恵まれた条件です。それなのに、5年、10年と手つかずのままになっている実家があります。
近いからこそ動けない。この地域には、そういう構造があります。
この3市の実家に共通する「近いのに動けない」構造
春日市・大野城市・太宰府市は、いずれも福岡市の南に隣接するベッドタウンです。西鉄天神大牟田線とJR鹿児島本線が通り、天神・博多まで20〜30分。1970年代から1980年代にかけて、福岡市で働く世代が次々と住宅を購入した地域です。
その世代が、いま80代に差しかかっています。
つまりこの3市には、「親が高齢・子は福岡市内在住・実家は築40〜50年」という、同じ形をした家族が同じ時期に重なっています。ご相談をお受けしていると、この構造はかなりはっきりしていると感じます。
そして、この「近さ」が判断を先送りさせます。
遠方に実家がある方は、管理の負担が重くのしかかるので、いやでも早く決断します。ところが車で30分の距離だと、月に一度風を通しに行けてしまう。郵便物も取りに行ける。庭の草も、休日に半日かければどうにかなる。
「まだどうにかなっている」状態が、いちばん長く続いてしまうのです。
その間にも建物は古くなり、両親は年を重ね、相続の話し合いは複雑になっていきます。
なお、同じ福岡県でも地域によって事情はかなり違います。県南のエリアについては久留米市・筑後エリアの実家問題、地域特有の事情とはで整理しています。
令和7年の国勢調査(速報)では、3市の形が分かれました
ここまでは、3市を「同じ形をした地域」としてまとめて書いてきました。実家の事情を考えるうえでは、それで足りる部分もあります。ただ、令和7年の国勢調査の結果を見ると、3市の数字はきれいに分かれていました。
福岡県の集計結果(速報)は令和8年5月29日に公表されています(令和7年国勢調査速報(福岡県分)|福岡県。2026年9月25日確認。県のページには「確報値は令和8年9月に公表される予定です」と記載されています。以下の数字はいずれも速報値です)。
| 市 | 人口(令和7年) | 人口の増減率 | 世帯数の増減率 | 1世帯当たり人員 |
|---|---|---|---|---|
| 春日市 | 109,026人 | △1.80% | +1.65% | 2.31人 |
| 大野城市 | 103,496人 | +1.38% | +4.83% | 2.31人 |
| 太宰府市 | 72,823人 | △0.47% | +6.40% | 2.21人 |
| (参考)福岡県 | 5,081,879人 | △1.04% | +3.35% | 2.12人 |
| (参考)福岡市 | 1,663,892人 | +3.19% | +6.29% | 1.88人 |
人口が増えたのは大野城市だけでした(1,411人増)。春日市は1,997人減り、太宰府市は341人減っています。福岡県全体でも人口は昭和45年の調査以降はじめて減りましたが、この3市はその中で別々の方向へ動いていました。
「福岡市に近い」という条件は3市に共通していても、そこから先の数字は共通ではなくなっている、ということです。
世帯の増え方は、3市でかなり違います
実家のことを考えるときに効いてくるのは、人口より世帯数のほうです。家を借りたり買ったりするのは「人」ではなく「世帯」なので、次にこの家に住む相手が地元で増えているかどうかは、世帯の数に表れます。
3市はいずれも世帯数が増えました。ただ、増え方の幅が違います。太宰府市は1,982世帯増(+6.40%)、大野城市は2,067世帯増(+4.83%)、春日市は764世帯増(+1.65%)です。福岡県全体の伸び(+3.35%)を下回っているのは、3市のうち春日市だけでした。
春日市は3市でいちばん人口が多い市です。それでいて世帯の増加数がいちばん小さい、という形になっています。
県の広域地域振興圏で見ると、この3市は筑紫野市・那珂川市と同じ圏域に入ります。圏域全体では人口439,037人(658人減・△0.15%)に対して世帯は189,131(8,024世帯増・+4.43%)で、「人はほぼ横ばい、世帯は増えている」という読み方になります。ただしその8,024世帯のうち春日市が担っているのは764世帯です。圏域でいちばん伸びたのは筑紫野市で、人口2,608人増(県内で2番目に多い増加数)・世帯2,975世帯増(+7.11%)でした。圏域の数字を見て安心すると、市ごとの違いが見えなくなります。
もうひとつ、1世帯当たり人員です。3市と福岡県・福岡市の数値は上の表のとおりで、3市はいずれも県の平均より大きく、隣の福岡市との差もはっきりしています。隣り合っていても、世帯の大きさは福岡市と同じではないということです。なお県全体では1世帯当たり人員が前回の調査から0.09人減っており、世帯規模の縮小が続いていると速報に記載されています。ただし市ごとの前回との比較は、この速報の市区町村別の表には載っていません。ここで見ているのは令和7年時点の水準の違いです。
ひとつ留保を書いておきます。国勢調査の速報から分かるのは世帯の増減までで、それが転入によるものなのか、世帯が分かれたことによるものなのかは、この数字からは判別できません。ここでは「次の住み手になりうる世帯が地元でどれだけ増えたか」の目安として読んでいます。
隣接する糟屋郡も、同じ福岡都市圏ながら数字の形が違います。そちらは糟屋郡の実家、売る?貸す?で整理しています。
ベッドタウンの実家は、実は「売りやすい」ほうです
ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。
この3市の実家は、九州全体で見れば売却も活用もしやすい立地にあります。理由は3つです。
1. 通勤需要が続いている
天神・博多への通勤圏でありながら、福岡市内より住宅価格が抑えられる。子育て世代がこのエリアを選び続ける理由がここにあります。ただし、あとで見るとおり令和7年の国勢調査では3市の数字が分かれました。「買い手が途切れにくい」という見方も、3市をひとまとめにはできなくなっています。
2. 建物が古くても土地に値段がつく
築45年の木造住宅そのものに大きな価値は残っていなくても、この地域は土地の需要があります。古家付き土地として売る、あるいは解体して更地で売る、どちらの選択肢も現実的に検討できます。
3. 生活インフラが整っている
学校・病院・スーパーが揃っていて、駅やバス便もある。買い手にとっての不安要素が少ない地域です。
「築50年だから売れないだろう」と思い込んで動かずにいる方も、いらっしゃいます。まず値段を知るだけでも、判断は大きく変わります。
それでも先送りされてしまう3つの理由
売りやすい条件が揃っているのに動けない。その理由はたいてい、不動産の問題ではありません。
理由1:親がまだ住んでいる/施設に入ったばかり
親御さんが健在なうちに実家の話を持ち出すのは、気が重いものです。「まるで死ぬのを待っているようで言い出せない」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
ただ、認知症などで判断能力が低下すると、ご本人の名義の不動産は原則として売却できなくなります。成年後見制度を使うことになり、手続きも時間も一気に重くなります。
親御さんが元気なうちに「もしものときはどうするか」を一度話しておくことが、結果的にご家族全員を守ります。
理由2:きょうだいで意見が割れている
「売りたい弟」と「残したい姉」。この対立が起こることもあります。
私たちの経験では、対立の正体はお金ではなく「思い出の家を自分が手放す決断をした」という役回りを、誰も引き受けたくないことにあります。
だからこそ、第三者を入れて選択肢を全部テーブルに並べるだけで、話が動き出すことがあります。「売る/残す」の二択で争っている間は、なかなか結論が出ません。話がまとまったあとの書面については遺産分割協議書は自分で作れる?書き方と注意点もあわせてご覧ください。
理由3:何から手をつければいいかわからない
相続の登記は司法書士、売却は不動産会社、税金は税理士、解体は解体業者。相談先がバラバラで、最初の一歩がわからない。
これは、実家問題がここまで先送りされる最大の原因だと私たちは考えています。
相場を自分で調べる3つのステップ
「まず自分で相場感をつかみたい」という方へ。無料で、その日のうちにできる方法があります。
ステップ1:国土交通省「不動産情報ライブラリ」で実際の取引価格を見る
国が公表している実際の成約価格のデータベースです。市区町村・地区・築年数で絞り込めます。不動産会社の売り出し価格ではなく「実際に売れた値段」なので、いちばん実態に近い数字が分かります。
ステップ2:ポータルサイトで「いま売りに出ている物件」を見る
SUUMO・HOME'Sなどで、実家と同じ市・同じ校区・近い築年数の物件を探します。ステップ1が「過去に売れた値段」、ステップ2が「今の売り出し価格」。この2つを見比べると、相場の幅が見えてきます。
ステップ3:固定資産税の納税通知書を確認する
毎年届く納税通知書に「固定資産税評価額」が載っています。土地の実勢価格は、この評価額のおおむね1.1〜1.2倍程度が目安とされることが多いですが、あくまで参考値です。
この3つで分かるのは、あくまで「だいたいの幅」です。
同じ校区・同じ築年数でも、間口・道路付け・接道義務・境界の確定状況・再建築の可否で、価格は数百万円単位で変わります。最終的には現地を見ないと分かりません。ただ、幅を知っているだけで、その先の話がずっとしやすくなります。
窓口の形も、3市で違います
「空き家バンクに登録すればいい」と考えて調べ始めた方が、この3市ではつまずきやすいところがあります。3市の窓口は、3つとも形が違います(2026年9月25日確認)。
- 大野城市:市が空き家バンクを運営しています。福岡県版の空き家バンク「空き家DE暮らす」にも大野城市のまち紹介ページがあり、同日時点の掲載は土地1件のみでした(借りる・戸建・マンションはいずれも0件)
- 春日市:市の空き家のページに、物件を登録する「空き家バンク」は見当たりません。代わりに、福岡県宅地建物取引業協会筑紫支部内に置かれた「空き家総合相談窓口」(相談無料)と、春日市シルバー人材センターによる空き家管理サービスが案内されています。申込みの手順は市のページに書かれています
- 太宰府市:こちらも登録制の空き家バンクという形ではなく、空家等対策協議会、宅地建物取引業協会や司法書士会などとの協定、令和8年度の無料相談会という組み立てになっています
県版の「空き家DE暮らす」のまち紹介一覧にも、大野城市・筑紫野市・那珂川市・宇美町・久山町のページはある一方で、春日市と太宰府市のページは見当たりませんでした(2026年9月25日確認)。なお、まち紹介ページが無いことと、市に空き家の窓口が無いことは別の話です。数えているものが違います。
整理すると、「相談できる場所があるか」と「物件を登録して次の住み手を待てる場所があるか」は別です。3市とも相談先は用意されていますが、登録して待つ形が市の制度として置かれているのは大野城市でした。春日市・太宰府市の実家で「貸す・活用する」を考える場合は、市の制度に乗るのではなく、県版の空き家バンクや民間の不動産会社を使う前提で組み立てることになります。
制度の内容や条件は年度ごとに変わります。このページでは金額や条件には触れません。実家がある市の担当課で、最新のものをご確認ください。
各市の窓口・空き家バンク
売却以外の選択肢を検討したい方は、各市の窓口も確認しておくと選択肢が広がります。
- 大野城市:市が大野城市空き家バンクを運営しています
- 春日市:市の公式サイトに空き家に関するページがあります
- 太宰府市:空き家に関する情報ページで、空家等対策協議会や無料相談会などの取り組みを確認できます
また、福岡県全体では福岡県宅地建物取引業協会が運営する福岡県空き家バンク「空き家DE暮らす」があります。
なお、補助金や支援制度は年度ごとに内容が変わり、予算がなくなり次第終了するものもあります。各市の窓口または公式サイトで最新の情報をご確認ください。
まず何から手をつけるか
順番に迷ったら、この3つからです。
- 名義を確認する:登記簿上、実家が誰の名義になっているか。親のままか、祖父母の代で止まっていないか(相続登記の義務化とは?期限・過料の条件と今からやるべきこと)
- だいたいの値段を知る:上の3ステップで幅をつかむ
- 家族で一度、選択肢を並べて話す:「売る/残す」の二択にせず、貸す・活用する・当面保有するも含めて全部並べる
この3つが済んでいれば、専門家に相談したときの話の進み方がまったく違います。
まとめ:条件は恵まれている
春日市・大野城市・太宰府市の実家は、条件としては恵まれています。動き出せば選択肢が多い地域です。ただし、その度合いは3市で同じではありません。令和7年の国勢調査で数字が分かれたことは、上の章で見たとおりです。問題は「まだどうにかなっている」時間が長く続いてしまうことだけです。
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そして私たちは不動産会社ですが、だからこそ「売らないほうがいい実家」があることも知っています。売却ありきのご提案はいたしません。
よくある質問
Q. 春日市・大野城市・太宰府市の実家は売りやすいですか?
A. 立地の条件としては、比較的売りやすい部類に入ります。通勤需要が続いている、建物が古くても土地に値段がつく、生活インフラが整っているという3つの条件が揃っているためです。ただし、その度合いは3市で同じではありません。違いは本文の国勢調査の章にまとめました。
Q. 条件がいいのに先送りされてしまうのはなぜですか?
A. 主な理由は3つです。親がまだ住んでいる、きょうだいで意見が割れている、何から手をつければいいかわからない——のいずれかで止まっている例が見られます。
Q. この3市の実家の相場を自分で調べる方法は?
A. 3ステップで調べられます。①国土交通省「不動産情報ライブラリ」で実際の取引価格を見る、②ポータルサイトで売り出し中の物件を見る、③固定資産税の納税通知書を確認する、の順です。
Q. まず何から手をつければいいですか?
A. 各市の空き家バンクや窓口情報を確認し、家族で選択肢を並べて話すところから始めるのがおすすめです。条件は恵まれているため、動き出しさえすれば選択肢は多く残っています。
Q. 令和7年の国勢調査で、3市の数字は同じ動きでしたか?
A. いいえ、分かれました。どの市がどう動いたかは、本文の「令和7年の国勢調査(速報)では、3市の形が分かれました」の章に表でまとめています。世帯の増え方の違いは、その次の章で見ています。
Q. この3市に空き家バンクはありますか?
A. 市が運営する登録制度がある市と、相談窓口や協定という形をとっている市があります。市ごとの違いは本文の「窓口の形も、3市で違います」の章にまとめました。
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