「大牟田は、もう売れんやろ」
有明沿岸のご実家の話をうかがうと、ご本人よりも先に、離れて暮らすごきょうだいのほうからこの一言が出てくることがあります。言われたほうも、強く否定できない。そのまま「じゃあ、しばらくこのままで」という結論になって、話が終わります。
ただ、この「もう売れんやろ」は、大牟田市・柳川市・みやま市のどこにご実家があるかで、当たっているかどうかがかなり変わります。3市は有明圏域としてひとまとめに語られることが多いのですが、令和7年の国勢調査(速報)を開くと、3市の数字は同じ方向を向いていません。しかも、ずれているのは人口ではなく世帯のほうです。
この記事は、福岡県内の公的な統計と、3市それぞれの窓口の作りを見ながら、ご実家の考え方を整理するものです。書いているのは宅地建物取引業者(株式会社トレードラボ/宅地建物取引業 福岡県知事(2)第18659号)です。不動産会社なので売却のご相談も受けますが、だからこそ「これは急いで売らないほうがいい」という家もあると考えています。売却ありきでは書いていません。
福岡県で「世帯まで減っている」のは、まれな形です
先に、県全体の形を押さえておきます。
福岡県が公表した「令和7年国勢調査集計結果(速報)」(令和8年5月29日公表。2026年9月20日確認)によると、福岡県の人口は5,081,879人で、令和2年から53,335人(1.04%)減りました。昭和45年の調査以降はじめての減少です。ところが世帯数は2,401,053世帯で、77,728世帯(3.35%)増えています。市町村別に見ると、人口が増えたのは11市町なのに対し、世帯数が増えたのは37市町。1世帯当たりの人員は2.12人で、前回より0.09人小さくなりました。
つまり福岡県の大部分では、人は減っても世帯は分かれて増えています。ご実家を「次に誰が住むのか」で考えるとき、家は人単位ではなく世帯単位で借りたり買ったりするものなので、この形は所有者にとって悪い話ではありません。住まいを必要とする世帯の数は、その地域でまだ増えているからです。
県内を15に分けた広域地域振興圏で見ると、この「世帯だけは増える」形から外れている圏域は3つしかありません。直方・鞍手圏域(839世帯の減少)、田川圏域(1,620世帯の減少)、そして有明圏域(1,400世帯の減少)の3つです。残る12圏域は、いずれも世帯数が増えています。
同じ「世帯が減った圏域」でも、有明だけ形が違います
ここからが、この地域のいちばん大事なところです。
世帯が減った3つの圏域のうち、直方・鞍手圏域は4市町すべてが世帯減。田川圏域は8市町村のうち7つが世帯減で、増えたのは大任町だけでした。どちらも、圏域ぐるみで減っています。
有明圏域は、そうなっていません。
| 市 | 人口増減率 | 世帯の増減 | 1世帯当たり人員 |
|---|---|---|---|
| 有明圏域計 | △7.60% | △1,400世帯 | 2.30人 |
| 大牟田市 | △8.39% | △1,549世帯 | 2.14人 |
| 柳川市 | △6.06% | +100世帯 | 2.50人 |
| みやま市 | △7.90% | +49世帯 | 2.52人 |
柳川市もみやま市も、人口は6〜8%減っています。それでも世帯数はわずかに増えました。圏域全体の1,400世帯の減少は、大牟田市ひとつの1,549世帯減が作っているという形です。
そしてこの1,549世帯という減り方は、福岡県の60市町村のなかでいちばん大きい数字です(北九州市は区ごとに増減がありますが、市全体では1,591世帯の増加になっています)。人口の減少数でも、大牟田市の9,340人は北九州市に次いで県内2番目でした。
言いかえると、大牟田市のご実家については「人は減っても世帯は分かれて増えるから、次の住み手はいる」という福岡県全体の前提が、そのままでは当てはまりません。一方で、同じ有明圏域でも柳川市・みやま市のご実家は、世帯の数でいえばまだわずかに増えている場所にあります。「有明だからもう売れない」とひとくくりにすると、この差が見えなくなります。
なお、ここで挙げた数字はいずれも速報値です。確定値にあたる人口等基本集計は令和8年9月に公表される予定とされています(2026年9月20日確認)。また、統計から言えるのは世帯の数の増減までで、実際にどんな家が求められているかまでは分かりません。
その差は、3市の制度の作りにも出ています
もうひとつ、この地域を調べていて目についたことがあります。3市とも、空き家の制度の形が違うのです。
大牟田市には「空き家バンク」という名前の窓口が見当たりません
2026年9月20日に大牟田市の公式サイトを確認した範囲では、「空き家バンク」という名称の登録制度のページは見当たりませんでした。福岡県版の空き家バンク(愛称「空き家DE暮らす」)のまち紹介一覧にも、柳川市とみやま市のページはありますが、大牟田市のページはありません(大牟田市のアドレスを直接開くと、サイトのトップページに転送されます。2026年9月20日確認)。
その代わりに、大牟田市には別の形の入口が並んでいます。
- 市と協定を結んだ組合が開設している相談窓口。ありあけ不動産ネット協同組合が「空き家・空き地相談窓口」を無料で開設しています。市の説明によれば、この組合には宅地建物取引士・司法書士・建築士・土地家屋調査士・家財処分業者・解体業者・清掃業者などが在籍しているとのことです。
- 居住支援協議会によるマッチング。大牟田市居住支援協議会(市と特定非営利活動法人大牟田ライフサポートセンターの合同事務局)が、住まいの確保が難しい方と空き家所有者をつなぐ仕組みを運営し、空き家情報のサイトへの登録物件を募っています。
- 中心市街地では、市が建物と土地の寄付を受けて壊す事業。後述します。
「次の買い手を探して並べる」方向ではなく、「相談を受ける」「住まいに困っている方とつなぐ」「引き取って減らす」方向に寄った設計になっている、と読めます。世帯そのものが減っている街の対策としては、筋が通っているようにも思えます。
柳川市は「住まえるバンク」。頼む先の連絡先まで公開されています
柳川市の制度は「住まえるバンク制度」という名前です。市の公式ページに売買・賃貸の登録物件が一覧で並び、登録事業者の名前・所在地・電話番号も公開されています(2026年9月20日確認時点で12事業者)。
遠方の所有者にとって押さえておきたいのは、登録の前に確かめることがある点です。市のページには物件登録の条件と必要書類が並んでいて、「まず市に登録してから考える」という順番にはなっていません。何を先に決めておく必要があるかは、市のページでご確認ください。なお、希望に合う物件がない利用者のために、リクエスト申請の様式も用意されています。
みやま市は市の専用サイト。ただし市は交渉に関与しません
みやま市は「空き家・空き地バンク」の専用サイトを持っていて、物件の検索、売りたい人・貸したい人向けの案内、登録事業者の一覧、支援制度のページが分かれています。担当は建設都市部 都市計画課 住宅政策係です。
サイトには「空き家・空き地バンク登録物件に対するやり取りは、登録者(所有者または仲介業者)と利用者で行っていただきます。市は、賃貸・売買に関する交渉・契約には一切関与しません」と明記されています。そのうえで、トラブル防止のため登録事業者への仲介依頼を勧める、という書き方です。登録したら市が売ってくれる、という制度ではないということです。
なお、3市とも空き家に関する支援制度を設けていますが、内容・上限・受付期間は年度ごとに変わり、予算の上限に達した時点で締め切られることもあります。このページでは金額には触れません。申請を考える段階で、実家がある市の担当課で最新のものをご確認ください。
大牟田市の中心市街地には、市が土地ごと引き取る事業があります
大牟田市の取り組みのなかで、他の市町村ではあまり見かけない形のものがあります。「まちなか老朽危険家屋除却促進寄付受け事業」です。市の説明によれば、令和7年5月1日に創設された事業で、中心市街地の対象エリア内にある老朽化した空き家について、所有者から市が建物と土地の寄付を受け、建物を除却するものとされています。
ここで押さえておきたいのは、この事業が「どこの空き家でも引き取ってもらえる」ものではない、という点です。市のページには対象エリアの図が掲載されていて、その区域以外は対象にならないと書かれています。まちなかから外れたご実家は、この事業の話ではありません。対象となる要件は他にもいくつかあり、当社が可否を判断できるものではありません。詳しくは市のページと要綱でご確認ください。
相談先は、まちなか活性化推進室とされています。まずはご実家がエリアに入っているかどうかを、市の図でご覧になるのが早いと思います。
この地域の実家は売りやすいのか、売りにくいのか
正直なところを3つに分けて書きます。
1. 大牟田市は「次の世帯」が地元で増えていない
上で見たとおりです。福岡県の他の多くの市町村では、人口が減っても世帯は増えているため、家を必要とする単位の数は保たれています。大牟田市はそこが違います。市内で次の住み手を探す前提で考えると、想定していたより時間がかかることがあります。
一方で、1世帯当たり人員は2.14人と、県平均(2.12人)に近い小ささです。大きな家族向けの家より、少人数で住める家のほうが実情に合いやすい地域だと読むことはできます。
2. 柳川市・みやま市は「世帯は増えているが、大きい」
柳川市2.50人、みやま市2.52人。どちらも県平均よりはっきり大きい数字です。世帯の数はわずかに増えていて、しかもその世帯は小さくなりきっていない。部屋数のあるご実家が、そのままの形で求められる余地は残っていると考えられます。
ただし増え方は、柳川市が100世帯、みやま市が49世帯です。5年でこの規模ですので、「増えているから急がなくていい」という話にはなりません。
3. 「相談できる先が用意されている」のは強みです
数字の話は厳しめですが、窓口の面ではこの3市は整っているほうです。大牟田市は市と協定を結んだ組合の相談窓口があり、柳川市は登録事業者の連絡先を公開し、みやま市は専用サイトで手順を分けて案内しています。さらに福岡県には空き家活用サポートセンター(愛称「イエカツ」)があり、相談から活用・処分の提案、専門事業者とのマッチングまでを扱うとされています。
県外や県内の遠方にお住まいでも、電話をかける先を自分で一から探さずに済みます。
なぜ先送りになるのか(この地域の場合)
ごきょうだいで話が止まる理由は、だいたい次の3つに集まります。
- 「もう売れない」で話が終わってしまう。売れる・売れないを先に結論にしてしまうと、そのあとの選択肢(貸す、住まいに困っている方につなぐ、エリアによっては市に寄付する)を調べる動機がなくなります。順番が逆になっています。
- 近くに住むどなたかが、静かに管理を引き受けている。草を刈り、郵便物を見て、台風のあとに様子を見に行く。誰かが回している間は、問題として表面化しません。その方の負担だけが積み上がります。
- 相談先が家族の中でばらばら。ひとりは市役所、ひとりは地元の不動産会社、ひとりはインターネット。前提の情報がそろわないまま話し合うので、結論が出ません。
3つとも、誰かが悪いわけではありません。ただ、この状態で数年が過ぎると建物は傷みますし、名義人が一代分増えて手続きが重くなります。
相場を自分で調べる3ステップ(遠方からでもできます)
誰かに聞く前に、自分の手元で概算をつかんでおくと話が早くなります。3つとも自宅のパソコンでできます。
- 不動産情報ライブラリで実際の成約価格を見る。国土交通省が公開しているサイトで、実際に取引された価格を地域と時期で絞って確認できます。「福岡県・大牟田市・宅地」のように条件を入れて、単価のレンジをつかみます。
- 不動産ポータルサイトで現在の売り出し価格を見る。成約価格が「売れた値段」なら、こちらは「今出ている値段」です。同じ町名で検索して、何件出ていて、どれくらいの期間掲載され続けているかを見ます。長く残っている物件が多い地域は、実際には値段が動くと考えておくほうが無難です。
- 固定資産税の納税通知書を出してくる。毎年4〜5月に届くあの封筒です。土地と建物それぞれの評価額と地目が書かれています。売買の値段そのものではありませんが、手元にある唯一の公的な数字なので、窓口での話が具体的になります。
この地域の窓口(2026年9月20日確認)
- 大牟田市 空き家所有者の方へ(大牟田市公式サイト)|相談窓口・居住支援・解体・利活用の入口がまとまっています
- 大牟田市 まちなか老朽危険家屋除却促進寄付受け事業について|対象エリアの図と要件、様式が掲載されています
- 柳川市 住まえるバンク制度(柳川市公式サイト)|登録物件一覧と登録事業者一覧、登録の様式
- みやま市 空き家・空き地バンク(みやま市公式サイト)|買いたい人・売りたい人・事業者情報・支援制度に分かれています
- 福岡県版の空き家バンク「空き家DE暮らす」まち紹介一覧(公益社団法人福岡県宅地建物取引業協会)|柳川市・みやま市のまち紹介ページがあります
- 福岡県 空き家活用サポートセンター「イエカツ」(福岡県)|相談から活用・処分の提案、事業者とのマッチングまで
- 福岡県 令和7年国勢調査速報(福岡県分)|この記事の人口・世帯の数字の出どころです
- 不動産情報ライブラリ(国土交通省)
まず何から手をつけるか(3つだけ)
- ご実家がどの市にあるかで、前提を分ける。大牟田市なら「市内で次の世帯を探す」以外の道(貸す、住まいに困っている方につなぐ、中心市街地なら寄付受け事業)も最初から並べる。柳川市・みやま市なら、まずバンクへの登録が現実的な入口になります。
- 名義を確かめる。登記事項証明書は法務局で取れます。親御さんの名義のままか、祖父母の代で止まっていないか。どの道を選ぶにしても、この確認は先に済ませておくほうが話が進みます。
- 窓口に1本だけ電話する。聞くことは「うちの実家はこの制度に登録できますか」「支援制度の受付は今年いつまでですか」の2つで十分です。名義が固まっていなくても相談はできます。
まとめ
有明圏域は、福岡県のなかで世帯数が減っている数少ない圏域のひとつです。ただし、その減少は3市で等しく起きているわけではありません。大牟田市は県内で最も大きく世帯を減らし、柳川市とみやま市は人口が減るなかで世帯をわずかに増やしています。
「有明だから」でまとめてしまうと、この違いが見えません。ご実家がどの市にあるかで、置いておける時間も、選べる道の数も変わります。まずは圏域の数字ではなく、ご実家がある市の行をご覧ください。
なお、登記の申請や税務申告、法律相談は、司法書士・税理士・弁護士といった専門家の業務です。当社が行うものではありません。必要な場面では、そうした専門家や市の窓口と連携しながら進めていくことになります。
よくある質問
Q. 大牟田市に空き家バンクはありますか?
A. 2026年9月20日に確認した範囲では、「空き家バンク」という名称の登録制度のページは大牟田市の公式サイトに見当たりませんでした。代わりに市と協定を結んだ組合の相談窓口や、居住支援協議会による仕組みが案内されています。入口の名前が違うだけで、相談先が無いわけではありません。
Q. 柳川市の住まえるバンクには、誰でも登録できますか?
A. 市のページに登録の条件と必要書類が掲載されています。先に確かめておくことがありますので、登録をお考えの段階で市の公式ページをご覧ください。
Q. みやま市の空き家バンクに登録すると、市が売ってくれますか?
A. いいえ。みやま市のサイトには、やり取りは登録者と利用者で行い、市は賃貸・売買に関する交渉・契約には一切関与しないと明記されています。そのうえで、登録事業者への仲介依頼を勧める案内になっています。
Q. 実家を市に引き取ってもらうことはできますか?
A. 大牟田市には中心市街地の対象エリアに限って、建物と土地の寄付を受けて除却する事業があります。位置づけは本文の「大牟田市の中心市街地には、市が土地ごと引き取る事業があります」の章で触れました。該当するかどうかの判断は市が行いますので、条件は市のページでご確認のうえ、まちなか活性化推進室にご相談ください。
Q. 3市のなかで、いちばん急いだほうがいいのはどこですか?
A. 統計から言えるのは「次の住み手になる世帯の数が地元で増えているかどうか」までで、個別のご実家が売れるかどうかとは別の話です。判断の材料になる世帯の動きは、本文の表にまとめました。県や圏域の平均ではなく、ご実家がある市の行をご覧ください。
あわせて読みたい
「うちの実家はどうするのが向いているんだろう」と迷っている段階の方は、1分でできる実家の診断から始めてみてください。売る前提の診断ではありません。いまの状況を整理するためのものです。


