「近いうちに帰るけん、そのときに見てくる」。福岡から離れて暮らしている方に実家の話をうかがうと、たいていこの言葉が出てきます。嘘でも言い訳でもなく、本当にそのつもりで言われています。ただ、その「近いうち」が半年になり、一年になり、気づけば庭木が塀を越えている、というのもよくある展開です。
遠方から実家を管理するとき、多くの方が最初に考えるのは「誰に頼めばいいか」です。ただ、私たちは不動産会社として管理のご相談をお受けしていますが、詰まるのはそこではないと感じています。詰まるのは、頼む前に決めておくべきことが決まっていないときです。
その「決めておくべきこと」が、実はまとまった形で公表されています。国土交通省が令和6年6月に出した「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」です。宛先は不動産業者ですが、中身は頼む側にとっても実用的です。この記事では、そこに書かれている内容のうち、遠方に住む方が知らないまま進めると止まりやすい点を整理します。
遠くに住んでいるのは、例外ではありません
ご相談のなかで「うちは特殊で、遠いもので」とおっしゃる方が少なくありません。けれど数字を見ると、遠方から実家を持っている状態はかなり一般的です。
先ほどのガイドラインは、空き家の所有者について、取得経緯の約6割が相続によるものであること、居住地から空き家の所在地まで所要1時間を超える所有者が約3割を占めることを挙げています(出典として令和元年空き家所有者実態調査が示されています)。3割という数字は、少数派とは言いにくい規模です。
福岡県内に目を移すと、福岡県のまとめでは、県内の空き家の総数は約34万戸、そのうち賃貸・売却用の住宅や別荘等の二次的な住宅が約21万戸、その他の住宅が約13万戸とされています(令和5年住宅・土地統計調査による数字として県のページに掲載されています。2026年9月4日に確認しました)。この「その他の住宅」約13万戸のなかに、誰も住まなくなった実家の多くが含まれていると考えられます。
つまり、遠方から実家を抱えている状態は珍しい事故ではなく、想定された状況です。想定されているからこそ、対応の型もある程度まとまってきています。
国が「不動産業者向け」に出した文書に、頼む側が知っておくべきことが書いてある
空き家の管理サービスは、いま様々な業種が提供しています。ガイドラインは、その現状について「様々な主体が空き家管理に関するサービスを提供していますが、業務の適正化を図る制度が存在しないのが現状です」と率直に書いています。免許や登録の仕組みがない領域なので、サービスの中身も契約の書き方も、事業者ごとにばらついているということです。
そこで示されたのが、この標準的なルールです。以下は2026年9月4日に本文を確認した内容ですが、制度や運用は見直されることがありますので、実際に依頼される際は事業者と原文の両方でご確認ください。
1. 貴重品は、管理が始まる前に自分で出しておく
ガイドラインは、管理を受託する空き家には貴重品が置かれていないことが望ましいとし、受託する側が、管理を開始するまでに委託者の責任で貴重品の搬出を完了しておくよう求めることが望ましい、としています。現金や有価証券のほか、盗難や紛失のおそれがあると所有者が考えるものも含む、という書き方です。
遠方に住んでいると、ここが最初の壁になります。管理を頼みたい理由が「行けないから」なのに、頼む前に一度行って貴重品を出す必要がある。順序が逆に感じられるかもしれませんが、預ける側と預かる側の双方を守るための線引きです。帰省の予定を1回だけ確保して、その日に済ませてしまうのが現実的です。
2. 動かせない家財は、契約の対象から外れることがある
タンス、仏壇、大型の家電のように、簡単には動かせないものがあります。ガイドラインは、移動が困難な家財・荷物については管理委託契約の対象外とする旨を契約書に明記しておくことが望ましい、としています。
ここは誤解が起きやすいところです。「家ごと見てもらっている」と思っていたのに、中の家財は対象外だった、という食い違いが起こりえます。建物のなかに入って作業してもらう場合には、移動が難しい家財の紛失や毀損について、どういう場合に誰が責任を負うのかを説明したうえで契約に定めることが望ましい、とも書かれています。契約書を受け取ったら、この項目がどう書かれているかを見てください。
あわせて、家のなかの家財を写真に撮り、依頼する側と受ける側の双方で確認して保存しておくことも有効とされています。遠方に住んでいるほど、この記録が後の判断材料になります。
3. 親の名義のままなら、権限を示す必要がある
これが、遠方の方からのご相談でいちばん多く止まる点です。
ガイドラインは、管理として想定される定期的な巡回や通風・換気などの作業は、基本的に民法上の「保存行為(財産の現状を維持する行為)」に当たると整理しています。そのうえで、保存行為は原則として所有権を有する人が行うことができ、共有であれば共有者の一人が単独で行うことができ、これらの人の代理人または後見人も行うことができる、としています。
そして、所有権を有する人以外から管理の委託について相談があった場合には、その人が委任状によって代理権を付与されていることや、後見人として選任されていることなどにより、保存行為を行う権限を有することを確認することが重要である、と続きます。
実務に置き換えると、こういうことです。実家がまだ親御さんの名義で、親御さんが施設に入っておられる、あるいは判断が難しくなってきている。そういう状況で、離れて暮らす子が管理を頼もうとしても、その子に権限があることを示せなければ話が進みません。逆に、親御さんが元気なうちであれば、委任状を1枚お願いするだけで済みます。名義がどうなっているかを先に確かめておくと、この段階でつまずかずに済みます。
4. 傷みすぎた実家は、そもそも管理を受けてもらえないことがある
知られていないわりに影響が大きいのが、この点です。
ガイドラインは、空家等対策の推進に関する特別措置法にいう「管理不全空家等」や「特定空家等」として、すでに市町村長の指導・勧告の対象となっている空き家、周辺の生活環境に悪影響を及ぼしている空き家を、この文書の対象として想定していない、と明記しています。理由として、こうした空き家はまず悪影響に関連する要因を速やかに取り除くことが必要と考えられるため、と説明されています。腐朽や破損によって著しく状態の悪い空き家についても、安全な作業の遂行が難しいと考えられるため対象外とされています。
言い換えると、管理を頼むという選択肢には期限があります。傷みが一定を超えると「管理を頼む」段階を通り越してしまい、そこから先は、状態を解消するための費用と、売却して回収できる見込みとを比べる話に変わります。ガイドラインも、管理を続けることが経済的な合理性に欠ける場合などには、放置によって生じる問題やリスクを説明したうえで、公費による除却費用の助成制度等を紹介しつつ除却を助言することが考えられる、としています。なお、助成の有無や内容は市町村ごとに異なりますので、後段の窓口情報もあわせてご覧ください。
5. 電気・水道・ガスは、扱いがそれぞれ違う
「全部止めておけばいい」と思われがちですが、ガイドラインの整理は設備ごとに分かれています。
電気については、供給が必要な設備がある場合には通電しておくことが考えられる、とされています。水道については、管理の作業で使う水の量が排水トラップの封水程度であれば、水道の使用を中止していても、管理に行く人が水を持参することで対処できると想定される、という書き方です。ガスについては、管理上ガスの供給が必要な場合は少ないと想定されるため、通常は供給を行わずに閉栓し、プロパンガスであればガスボンベを取り外すことが一般的と考えられる、とされています。
そして、通電・通水しておく場合には漏電や漏水のおそれがあるほか、料金の支払いが発生するため、料金を誰が払うのか、また受託した側に落ち度なく漏電や漏水が起きたときに受託した側が責任を負わないことを、契約に定めておくことが望ましい、と続きます。寒冷地などで水道管の凍結による破損のおそれがある場合には、冬季のみ閉栓して水抜きをしておくことも必要と考えられる、とも書かれています。
細かい話に見えますが、遠方に住んでいると、電気代や水道代の引き落としが続いていることに気づかないまま何年も過ぎることがあります。誰が払うのかを最初に決めておくのは、金額の大小とは別に意味があります。
6. 報告の方法と頻度を、契約に書いてもらう
ガイドラインは、委託者は空き家に住んでおらず、遠隔地に居住している場合も多いため、作業が適切に完了したことの確認や作業の不備に気づくことが難しいケースが想定される、と述べています。そのうえで、完了報告の方法と頻度を契約締結前に具体的に説明し、契約に定めることが望ましい、としています。
例として挙げられているのは、作業終了からおおむね1週間程度の期間内に、写真や動画、文章を使った書面などの、作業内容が容易に確認できる方法で、作業が完了するごとに報告するというやり方です。また、管理不全が懸念される事象やその兆候、その他の不具合に気づいた場合には、完了報告を待たずにできるだけ速やかに伝えることが望ましい、ともされています。
もうひとつ、遠方の方に知っておいていただきたい記述があります。市町村が所有者を把握できていない場合や、把握できていても継続的に連絡が取れない場合には、市町村から管理を受託している事業者へ問い合わせが行われることがありうる、というくだりです。連絡先が古いままだと、行政からの連絡が自分に届かないまま話が進むことがある、ということでもあります。
なお、ガイドラインは、空き家が人の出入りの少なさから現金送付型の特殊詐欺の送付先として使われる事例もみられるとして、不審な利用が認められる場合には委託者へ速やかに報告したうえで警察への情報提供を検討するよう促しています。誰も見ていない家というのは、そういう使われ方をされうる、ということです。
正直なところ、遠方からの管理は良いことばかりではありません
「委託すれば解決します」とだけ言うのは不誠実だと思うので、3点そのままお伝えします。
助かること。 台風や大雨のあとに誰かが見に行ける状態になります。ガイドラインが参照する管理指針でも、地震や強風、大雨、著しい降雪などのあとには点検対象となる事象が生じていないかの確認が必要とされています。九州で暮らした経験のある方ほど、この一点の重さは想像しやすいと思います。
やりにくいこと。 契約前に、敷地内と建物内部を含めた現況の確認を双方で行うことが有効とされています。つまり、少なくとも一度は現地で立ち会う場面が出てきます。遠方であるほど、その1回の調整が重くなります。
見落としやすいこと。 管理を続けている間、家は減っていきません。庭木は伸び、設備は古くなり、荷物はそのまま残ります。管理は状態の維持であって、問題の解決ではありません。委託して安心してしまい、売る・貸す・手放すの判断がかえって遠ざかることがあります。管理を始めるときに「いつまで続けるか」を一度考えておくと、その先送りを避けやすくなります。
それでも先送りになる、3つの理由
遠方の実家の管理が止まるのは、忙しさが理由ではないことがほとんどです。もう少し具体的な詰まりが3つあります。
ひとつめは、帰省が「用事」になっていること。法事や見舞いで帰ると、実家の状態を見る時間が残りません。見ていないので判断もできず、次の帰省に持ち越されます。
ふたつめは、近くに住むきょうだいや親戚に、暗黙のうちに任せてしまっていること。頼んだつもりはなくても、近い人が様子を見に行く形になっている。頼まれた側は「勝手に決められない」と感じ、遠い側は「任せきりで申し訳ない」と感じて、どちらからも話を出しにくくなります。
みっつめは、相談先が分かれていること。境界は土地家屋調査士、名義は司法書士、税金は税理士、家の値段は不動産会社。遠方からだと窓口を訪ねる手間も増えるので、どこから電話すればいいのか分からず、結局どこにもかけない。
どれも段取りの問題です。そして段取りを決めるには、実家がいまどのくらいの水準にあるのかを知っておくと考えやすくなります。
実家のおおよその値段は、遠方からでも調べられます
管理を続けるか、そろそろ手放すかを考えるとき、水準を知っておくと話が具体的になります。次の3つは、現地に行かなくてもある程度進められます。
| 調べ方 | 分かること | いつやるか |
|---|---|---|
| 国土交通省の不動産情報ライブラリ | 実際の取引価格や地価公示を地図から確認できる | 最初に |
| 不動産ポータルサイトの売出中の物件 | いま売りに出ている価格の感覚 | 次に |
| 固定資産税の納税通知書 | 地番・家屋番号と評価の目安 | 手元に届いていれば |
1つめの不動産情報ライブラリは国土交通省が公開しているもので、地図から近所の水準を確かめられます。遠方に住んでいても手元で完結します。2つめは売出価格なので成約価格とは違いますが、感覚をつかむには十分です。3つめの納税通知書は、地番や家屋番号を確認するのに役立ちます。実家に届いたままになっているようであれば、送付先を変更できるかを市町村の担当課に尋ねてみてください。取り扱いは市町村ごとに異なります。
窓口と公的サイトのリンク
遠方からでも使える入り口をまとめます。いずれも2026年9月4日に開けることを確認しています。
- 福岡県「福岡県内の空き家対策のご案内」…県の空き家活用サポートセンター、県版の空き家バンク、市町村の事業制度への入り口がまとまっています
- 「福岡県空き家活用応援事業者」登録制度(一般財団法人福岡県建築住宅センター)…空き家対策に取り組む事業者の名簿が公表されています
- 国土交通省「不動産業者による空き家管理受託のガイドライン」…この記事で紹介した原文です
- 国土交通省 空き家対策特設サイト「空き家の管理のやり方」…空き家管理チェックリストがここから入手できます
- 国土交通省「全国地方公共団体空き家・空き地情報サイトリンク集」…実家のある市町村の空き家バンクを探せます
- 国土交通省「不動産情報ライブラリ」…取引価格や地価公示を地図から確認できます
空き家に関する補助や支援の制度は市町村ごとに異なり、年度によって内容が変わります。実家のある市町村の窓口で、最新の内容をご確認ください。
まず何から手をつけるか、3つ
すべてを一度にやろうとすると重いので、最初の3つだけ挙げます。どれも遠方からできます。
名義を確かめる。 実家が誰の名義になっているかで、管理を頼めるかどうかが変わります。親御さんの名義のままなら、元気なうちに委任状をお願いできるかを考えておくと、あとの選択肢が広がります。
次の帰省で、家のなかを撮っておく。 部屋ごとに何枚か撮っておくだけで十分です。管理を頼むときの現況確認にも、家財の記録としても使えます。片づけは、その日はしなくてかまいません。
電気・水道・ガスの契約が今どうなっているかを確かめる。 止まっているのか、止まっていないのか、引き落とし口座は誰のものか。管理を頼む段になって聞かれることの多い項目です。
まとめ
遠方から実家を管理するときに効いてくるのは、どの事業者に頼むかよりも、頼む前に何が決まっているかです。貴重品は自分で出しておく。動かせない家財の扱いを契約で決める。名義と権限をはっきりさせる。傷み具合が受託できる範囲に収まっているかを確かめる。ライフラインの料金を誰が払うかを決める。報告の方法と頻度を書いてもらう。国のガイドラインが並べているのは、どれも派手さのない項目ばかりですが、あとで食い違いが起きやすいのは、たいていこのあたりです。
そして、管理を頼むという選択肢自体に期限があります。市町村から指導や勧告を受ける状態まで進んでしまうと、ガイドラインが想定する管理の対象から外れます。まだ「管理を頼める状態」であるうちに考えておくほうが、選べる道は多く残ります。
私たちは不動産会社ですので、売ることを勧めるのが仕事だと思われるかもしれません。ただ、遠方の実家については、いま売らないほうがいいケースもあります。売る前提でなくてかまいませんので、判断がついていない段階でお声がけください。
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