「実家を売るとして、だいたいどのくらいかかるものなんでしょうか」

親御さんが住んでいた家について相談を受けるとき、いちばん最初に聞かれるのがこの質問です。そして私たちがいちばん答えにくいのも、この質問です。というのも、多くの方が思い浮かべている「かかる期間」と、実際に時間を食う場所が、まるで違うところにあるからです。

私たちは宅地建物取引業者として実家の売却をお手伝いする立場ですが、だからこそ「急がなくていい実家」も「急いだほうがいい実家」も見てきました。この記事では、査定から引き渡しまでの流れを、よくある「3〜6か月」という一言ではなく、3つの区間の足し算として分解してお伝えします。(本記事の税制・制度に関する記述は2026年8月21日時点で公的機関の情報を確認したものです)

実家売却の期間は「3つの区間」の足し算です

売却の記事を読むと「だいたい3か月から6か月」と書かれていることが多いのですが、あれは真ん中の区間だけの話です。実家の場合、その前後にもう2つ区間がついてきます。

区間やること長さを決めるもの自分で短くできるか
1.売り出せる状態にする遺産分割の合意/相続登記/残置物/境界の確認家族の合意と手続きできる
2.買主を探す査定・媒介契約・売り出し・条件交渉その地域の市場ほぼできない
3.引き渡す売買契約・決済・引き渡し・確定申告決められた手順できない

ここが実家売却の勘所です。実家で時間がかかるのは、たいてい区間1です。そして区間1は、市場も相手方も関係なく、自分たちの都合だけで長さが決まる唯一の区間でもあります。

「なかなか売れない」と感じているご相談の多くは、実は区間2に入る前で止まっています。名義が亡くなった親御さんのままだったり、きょうだいの一人と連絡が取れていなかったり。この状態では、査定はできても売り出すことはできません。相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請する義務も、令和6年4月1日から始まっています(法務省の解説ページ)。

区間2の時間の単位は「3か月」です

意外と知られていないのですが、区間2の長さには法律で決まった区切りがあります。宅地建物取引業法第34条の2第3項は、専任媒介契約の有効期間について「三月を超えることができない。これより長い期間を定めたときは、その期間は、三月とする」と定めています。更新はできますが、それも依頼者からの申出があってはじめて、しかも更新の時からまた3か月まで(同条第4項)。

つまり売り出しは「3か月ごとに、続けるか・条件を変えるかを決め直す」形で進みます。半年も1年もぼんやり預けっぱなしになる仕組みではない、ということです。

正直に言うと、実家の売却はここが有利でここが不利です

1.区間1は長いが、家族だけで終わらせられる

遺産分割の話し合いと相続登記は、不動産会社に依頼しなくても進められます(登記手続そのものは司法書士、相続税の申告は税理士の業務です。私たちはその方々と連携してご案内する立場です)。ここを先に終わらせておくと、売ると決めた瞬間に動ける状態になります。逆に言えば、売ると決める前でも進められる唯一の準備です。

2.区間2は値下げ以外にも動かし方がある

「反応がない」と言われると、多くの方はまず価格を下げようとします。でもその前に、自分の物件がいまどう扱われているかを見ることができます。

媒介契約を結んで物件情報が指定流通機構(レインズ)に登録されると、売主には「登録証明書」が交付されます。そこに記載されたアドレスとログイン情報から売主専用画面にアクセスすると、自分の物件が「公開中」「書面による購入申込みあり」「売主都合で一時停止中」のどれになっているかを、売主自身で確認できます。令和7年1月からは、この画面に入りやすいように登録証明書に二次元コードが載るようになりました(国土交通省「不動産取引に関するお知らせ」)。

あわせて、購入の申込みがあったときは遅滞なく売主へ報告する義務、専任媒介なら2週間に1回以上(専属専任媒介なら1週間に1回以上)業務の処理状況を報告する義務が、同じく宅地建物取引業法第34条の2に定められています。報告が来ていないなら、それは価格の問題ではありません。

3.区間3は実家でも普通の住宅でも変わらない

売買契約から決済・引き渡しまでは、住宅ローンの審査や引っ越しの都合がなければ、それほど長くはかかりません。ここを短縮しようとしても得るものは少なく、むしろ書類の確認を急いで見落とすほうが怖い区間です。

それでも先送りになるのは、区間1に「決める人」がいないからです

区間2と区間3には、不動産会社という進行役がいます。ところが区間1にはいません。きょうだいで顔を合わせるのは法事のときだけ、実家の話は誰も切り出さない。親御さんがまだお元気なら、なおさら言い出しにくい。

加えて、相談先が分かれているのも先送りの原因です。分け方の話は司法書士や弁護士、税金の話は税理士、家の値段の話は不動産会社。どこに最初に行けばいいのか分からないまま、また一年が過ぎます。

ここは、順番を決めてしまうのが早いです。「いくらになるか」を先に知ってから、分け方を決める。金額が見えないまま合意しようとすると、話し合いが感情の話になりやすいためです。

費用は「売るときにかかるお金」と「あとから来る税金」に分かれます

売るときにかかるお金

いちばん大きいのは仲介手数料です。上限は法律に基づく告示で決まっていて、国土交通省は税込の上限を次のように示しています。物件価格のうち200万円以下の部分に5.5%、200万円を超え400万円以下の部分に4.4%、400万円を超える部分に3.3%を掛けて合計した金額です。国土交通省が挙げている計算例では、物件価格1,000万円(税別)の場合、依頼者の一方から受け取れる上限は39.6万円(税込)になります。

ここで実家に関わりが深いのが、「低廉な空家等」の特例です。価格800万円以下の宅地・建物の売買の媒介については、令和6年7月1日以降、上の原則を超えて報酬を受け取ることができるようになりました。ただし上限は30万円の1.1倍、つまり33万円(税込)までです。使用の状態は問われません。地方の実家は800万円以下になることも珍しくないので、「安い家だから手数料も安いはず」という前提は今は成り立たないと考えておいてください。逆に、この特例があるおかげで不動産会社が手を挙げやすくなった面もあります。いずれにせよ、媒介契約を結ぶ前に金額を合意しておくことが大事です。

売買契約書に貼る印紙税は軽減措置の対象で、平成26年4月1日から令和9年3月31日までに作成される契約書について、契約金額500万円超1,000万円以下なら5千円、1,000万円超5,000万円以下なら1万円、5,000万円超1億円以下なら3万円です。このほか、家を取り壊してから売る場合は解体費用、境界が不明なら測量費、登記名義を整えるための費用がかかります。

あとから来る税金

売って利益が出た場合、譲渡所得として翌年に申告します。譲渡した年の1月1日現在で所有期間が5年を超えていれば長期譲渡所得となり、税率は所得税15%・住民税5%(このほか復興特別所得税として基準所得税額の2.1%)。5年以下なら短期譲渡所得で、所得税30%・住民税9%です。相続で取得した場合は、亡くなった方が持っていた期間を引き継いで判定します。

実家でよく問題になるのが、買ったときの金額が分からないことです。この場合は売った金額の5%を取得費とすることができます(概算取得費)。3,000万円で売れて取得費が不明なら150万円、という計算です。裏を返せば、売却額のほぼ全額が利益として扱われるということなので、古い売買契約書が実家のどこかに残っていないか、片付けの前に探しておく価値があります。

そのうえで、条件が合えば「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」で譲渡所得から最高3,000万円まで控除できる場合があります。昭和56年5月31日以前に建築された家であること、相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること、売却代金が1億円以下であることなど要件は細かく、令和6年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は2,000万円が上限です。適用期限は令和9年12月31日までの譲渡とされています。

税制は年度で変わり、要件の当てはめは個別の事情で結論が変わります。実際に使えるかどうかは、必ず所轄の税務署または税理士にご確認ください。

相場を自分で調べる3つのステップ

査定を頼む前に、自分でおおよその見当をつけておくと、出てきた金額の意味が分かります。3つだけで十分です。

  • 1.実際に取引された価格を見る。国土交通省の不動産情報ライブラリで、実家の周辺で成立した取引価格、地価公示、都道府県地価調査をまとめて確認できます。
  • 2.いま売りに出ている家の値段を見る。不動産ポータルサイトで同じ小学校区・似た築年数の物件を並べます。1の「成約した価格」と2の「売り出し中の価格」の差が、そのエリアの粘り具合です。
  • 3.固定資産税の納税通知書を出す。同封の課税明細書に土地と家屋の評価額が載っています。売買価格そのものではありませんが、土地の広さ・持分・登記上の面積を確かめる書類として確実です。実家に届いているはずの1通が、いちばん早い一次資料になります。

公的に確認できる窓口

まず何から手をつけるか、3つだけ

  • 登記簿で今の名義を確かめる。区間1が終わっているのか、まだ始まってもいないのかが、これだけで分かります。
  • 古い売買契約書を探す。取得費が分かるかどうかで、あとから来る税額が大きく変わります。片付けて処分してしまう前に。
  • 不動産情報ライブラリで周辺の成約価格を見る。金額の見当がつくと、きょうだいの話し合いが「気持ち」ではなく「数字」で進められます。

まとめ

実家売却にかかる期間を「査定から引き渡しまで」で数えると、いつまでも見通しが立ちません。区間1(売り出せる状態にする)・区間2(買主を探す)・区間3(引き渡す)に分けて、いま自分がどこにいるかを確かめてください。

そして、いま動かせるのは区間1だけです。名義を整えて、書類を探して、金額の見当をつける。ここまでは売ると決めていなくてもできますし、やっておけば「売らない」という判断もきちんと選べるようになります。私たちは不動産会社ですが、話を聞いた結果「今は売らないほうがいい」とお伝えすることもあります。まずは区間1から、で十分です。

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この記事で参照した公式ページ(2026年8月21日確認)