「まだ人が住んどるけん、そのうち誰か買うやろ」。直方市や鞍手町の実家について、ご家族からそんな言葉が出てくることがあります。商店も学校も動いていて、車で少し走れば飯塚も北九州もある。まちが急に消えるわけではないので、そう感じるのは自然なことだと思います。
ただ、2026年5月29日に福岡県が公表した令和7年国勢調査の速報値を見ると、直方市・宮若市・小竹町・鞍手町の4市町には、県内のほかの地域とは少し違う数字が出ています。人口が減っていることではありません。世帯の数まで減っていることです。
この記事では、その数字が実家の判断にどう効いてくるのかを整理します。売却をおすすめする記事ではありません。私たちは不動産会社ですが、だからこそ「いま売らないほうがいい実家」もあると考えています。判断の材料を先にそろえていただくための記事です。
直方・鞍手圏域で起きているのは「人口が減った」ではなく「世帯が減った」
まず、県全体の話から。福岡県の人口は5,081,879人で、令和2年から53,335人(1.04パーセント)減りました。福岡県の人口が国勢調査で減少に転じたのは、昭和45年以降で初めてです。
ところが、同じ調査で世帯数のほうは2,401,053世帯へ、3.35パーセント増えています。県内60市町村のうち37市町で世帯数が増えました。人が減っても、ひとり暮らしや二人暮らしに分かれることで、住まいの数そのものはむしろ必要とされている——県全体で見ると、そういう形になっています。
この4市町は、そうなっていません。
| 市町 | 令和7年の人口 | 人口の増減率 | 世帯数の増減率 |
|---|---|---|---|
| 直方市 | 53,568人 | マイナス4.70パーセント | マイナス0.78パーセント |
| 宮若市 | 24,109人 | マイナス8.32パーセント | マイナス3.40パーセント |
| 小竹町 | 6,533人 | マイナス8.64パーセント | マイナス4.80パーセント |
| 鞍手町 | 14,022人 | マイナス7.02パーセント | マイナス2.27パーセント |
| 圏域計 | 98,232人 | マイナス6.21パーセント | マイナス1.92パーセント |
4市町とも、人口も世帯数も減っています。県内では世帯数が増えた市町のほうが多いなかで、この圏域は4つそろって減った側にいます。
実家をどうするかを考えるとき、効いてくるのは人口の数より世帯の数のほうだと考えています。家は人ではなく世帯が単位で借りたり買ったりするものだからです。人口が減っても世帯が増えている地域なら、住まいを必要とする単位はまだ増えている。世帯まで減っている地域では、「次にこの家に住む世帯」そのものが地元では増えていないということになります。
隣を見ると違いがはっきりします。飯塚市は人口がマイナス3.19パーセントですが、世帯数はプラス2.09パーセントで増えています。同じ筑豊でも、飯塚と直方・鞍手では数字の形が違う。「筑豊だから」というひとくくりの感覚では、実家の判断材料にならないということです。
宮若市に大きな工場があっても、数字はこう出る
宮若市には、トヨタ自動車九州株式会社の本社と宮田工場があります。所在地は福岡県宮若市上有木1番地。1992年12月に操業を開始した工場で、同社の総人員は苅田工場・小倉工場と合わせて11,187人(2026年4月1日現在)です。
それでも宮若市の人口はマイナス8.32パーセント、世帯数はマイナス3.40パーセントで、この圏域では小竹町に次ぐ減り方になっています。働く場所があることと、その市に世帯が住み続けることは、数字の上では別々に動いている、ということです。
「近くに大きな工場があるから、家は必要とされ続けるだろう」という見立ては、いまの数字とはずれている可能性があります。ここは、実家の判断を先送りする理由になりやすいところなので、一度立ち止まって確かめておきたい部分です。
小竹町は、すでに「ひとり・ふたり暮らしが標準」の町
同じ速報値には、1世帯当たりの人員も出ています。小竹町は2.14人で、県内で少ないほうから5番目です。福岡市の1.88人、苅田町の2.04人、北九州市の2.07人、川崎町の2.09人に次ぐ数字になっています。
これは、実家に親がひとりで住んでいる、あるいは二人で住んでいるという状態が、その町ではすでに珍しくないということでもあります。まわりも同じ形なので、家族の側から見て「うちだけ特別」という感じがしにくい。動き出すきっかけが生まれにくい構造だと言えます。
この4市町の実家、売りやすい点と売りにくい点を正直に3つ
1.受け皿は最初からそろっている(売りやすい点)
国土交通省の「全国地方公共団体空き家・空き地情報サイトリンク集」で確認すると、直方市・宮若市・小竹町・鞍手町の4市町とも空き家バンクを持っています(2026年9月6日確認)。福岡県版の空き家バンク「空き家DE暮らす」にも、4市町それぞれのまち紹介ページがあります。
これは当たり前のことではありません。人口が増えている地域では空き家バンクを設けていない市町村もあり、その場合は「まず登録する先を探す」ところから始まります。この4市町では、その手間がありません。
2.地元だけで買い手を探す前提が成り立ちにくい(売りにくい点)
世帯数が減っているということは、地域のなかで「新しく家を必要とする単位」が増えていないということです。近所の人が買ってくれる、親戚が住んでくれる、といった見通しに寄りかかると、時間だけが過ぎることがあります。
空き家バンクが地域外への窓口として機能しているのは、この点で意味があります。買い手や借り手を地元の外に広げる前提で考えたほうが、選択肢は増えると考えられます。
3.4市町を同じ条件で考えられない(正直なところ)
直方市の人口減少率はマイナス4.70パーセント、小竹町はマイナス8.64パーセントで、同じ圏域のなかでも倍近い開きがあります。世帯数の減り方も、直方市のマイナス0.78パーセントと小竹町のマイナス4.80パーセントでは、意味合いがかなり違います。
「直方・鞍手エリアの相場はこのくらい」というまとめ方は、実家の判断にはあまり役に立ちません。市町単位、さらに言えば地区単位で見ないと、動くべきかどうかは決まらないと考えています。
それでも先送りになるのは、たいてい理由が3つ重なっているから
ひとつめは、まちがまだ動いているという実感です。買い物もでき、病院もあり、道路も走っている。急いで手を打つ理由が、生活の実感としては見えません。数字は5年に一度の調査でしか出てこないので、日々の感覚とずれるのは当然です。
ふたつめは、親がまだ住んでいることです。小竹町の1世帯当たり2.14人という数字が示すように、ひとりや二人で住み続けている家は、この地域では特別ではありません。家が使われている以上、片付けも名義の整理も「まだ先でいい」と後ろに回りやすくなります。
みっつめは、きょうだいが同じ場所にいないことです。福岡市の人口は51,500人増えて3.19パーセントの増加、県内で最も増えた市町村になりました。県内の人の動きは福岡市に向かっています。実家の話をするために全員が集まる機会そのものが、年に数えるほどしかない、というご家庭も多いはずです。
この3つは、どれも家族の側の落ち度ではありません。ただ、重なると数年はあっという間に過ぎます。だからこそ、全部を決めなくてよいので、調べられることだけ先に済ませておくことをおすすめしています。
相場を自分で調べる3ステップ(不動産会社に聞く前にできます)
査定を頼む前に、ご自身で当たりをつけておくと、出てきた数字が妥当かどうか判断しやすくなります。順番はこの3つです。
| 順番 | 調べ方 | 分かること |
|---|---|---|
| 1 | 国土交通省「不動産情報ライブラリ」で、実家のある市町の取引価格情報を見る | 実際に売買が成立した価格帯。広告の価格ではないので、現実に近い |
| 2 | 不動産ポータルサイトで、同じ市町・似た築年数の売り出し中の物件を見る | いま市場に出ている価格と、どのくらいの数が出ているか |
| 3 | 毎年届く固定資産税の納税通知書で、土地と家屋の評価額を確認する | 課税の基準になっている評価額。売買価格そのものではありませんが、目安になります |
1と2を見比べると、「売り出し価格は出ているのに、成約の記録が少ない」といったことが見えてきます。世帯数が減っている地域では、ここに差が出ることがあります。数字が少なくて分からない場合も、それ自体がひとつの情報です。
4市町の窓口と空き家バンク
2026年9月6日時点で確認できたものを載せます。市町のページは改編されることがあるため、開けない場合は国土交通省のリンク集からたどると見つけやすいと思います。
- 直方市空き家バンク(直方市公式ホームページ)
- 宮若市空き家バンク(宮若市公式ホームページ)
- 鞍手町空家バンクについて(鞍手町公式ホームページ)
- 小竹町のまち紹介(福岡県空き家バンク「空き家DE暮らす」)
- 全国地方公共団体空き家・空き地情報サイトリンク集(国土交通省)
- 令和7年国勢調査速報(福岡県分)|福岡県
小竹町については補足があります。国土交通省のリンク集に載っている小竹町の空き家情報ページの住所は、2026年9月6日に開いたところ町のトップページに転送されました。町の公式サイトが改編されたためと考えられます。小竹町の空き家の情報は、上に挙げた福岡県空き家バンクのまち紹介ページか、小竹町公式ホームページのトップから「移住・定住」の案内をたどってご確認ください。
解体やリフォームの費用を対象にした補助制度を設けている市町もありますが、対象と内容は年度によって変わります。金額や条件は、各市町の担当窓口で最新のものをご確認ください。
まず何から手をつけるか、3つだけ
1つめ。名義がいまどうなっているかを確認する。 登記簿上の所有者が誰になっているかは、法務局で登記事項証明書を取れば分かります。親の名義のままなのか、祖父母の代で止まっているのか。ここが決まっていないと、売るという選択肢そのものが動きません。実家が遠くても取得はできます。
2つめ。市町の空き家バンクのページを開いて、登録の条件を読む。 申し込むかどうかは後で決めてかまいません。どんな書類が要るのか、どんな状態の家が対象なのかを知っておくだけで、片付けの順番が変わります。
3つめ。不動産情報ライブラリで、実家のある市町の取引価格を見ておく。 数字を持ってから相談すると、話が具体的になります。相場を知らないまま複数社に査定を出すと、比べる基準がないまま数字だけが並ぶことになります。
この3つは、どれも実家に行かなくてもできます。ご家族で話し合う前の下ごしらえとして、先に済ませておくと、話が感情の押し引きになりにくくなります。
まとめ
- 令和7年国勢調査の速報値では、直方市・宮若市・小竹町・鞍手町の4市町とも、人口だけでなく世帯数まで減っている
- 福岡県全体では人口が1.04パーセント減った一方、世帯数は3.35パーセント増えている。この4市町は逆の動きになっている
- 隣の飯塚市は人口が減りつつ世帯数は増えている。「筑豊」とひとくくりにした判断はできない
- 宮若市には大きな工場があるが、人口も世帯数も減っている。働く場所があることと世帯が住み続けることは、数字の上では別に動いている
- 4市町とも空き家バンクがあり、受け皿は用意されている。買い手を地元の外に広げる前提で考えると選択肢が増える
- まずは名義の確認、空き家バンクの登録条件、取引価格の確認の3つから
数字は、急かすために出したものではありません。「まだ大丈夫」と感じる気持ちと、実際に起きていることのあいだにどのくらい距離があるかを知っておくと、後から慌てずに済みます。売らないという結論も、十分にありえます。
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