「実家は佐賀やけん、そのうち帰って考える」

福岡にお住まいの方から、佐賀のご実家の話をうかがうと、かなりの確率でこの言い回しが出てきます。博多から鳥栖までは特急で20分ほど、佐賀市までも1時間かかりません。帰ろうと思えば日帰りできる。だから「そのうち」で置いておける。

ただ、佐賀のご実家に関していうと、先送りの理由は「遠いから」でも「窓口がわからないから」でもないことが多いのです。佐賀県は、空き家の相談先を全国的にも珍しいくらいきれいに整理している県です。にもかかわらず動かない。止まっているのは、たいてい家そのものではなく家の外側のほうです。

この記事は、福岡在住のまま佐賀のご実家をどう動かすかを、公的な窓口と手続きの順番に沿って整理したものです。書いているのは宅地建物取引業者(株式会社トレードラボ/宅地建物取引業 福岡県知事(2)第18659号)です。不動産会社なので売却のご相談も受けますが、だからこそ「これは急いで売らないほうがいい」という家も見てきました。売却ありきでは書いていません。

佐賀の実家は「どこに電話すればいいか」で止まらない

実家の空き家問題でいちばん最初にぶつかる壁は、ふつう「役所のどこに聞けばいいのかわからない」です。市によって担当が都市計画課だったり定住促進課だったり環境課だったりして、電話をかけ直しているうちに一日が終わる。福岡都市圏の町でも、この段階で止まっている方は少なくありません。

佐賀県は、ここが違います。

県が20市町の窓口を1枚に並べている

佐賀県建築住宅課が運営する空き家ポータルサイト「あき家を、よき家に」には、県内20市町の空き家バンクの担当課名と直通の電話番号が一覧で並んでいます。しかもこのページには「現在、県内全20市町で空き家バンク制度に取り組まれています」と明記されています(2026年8月16日時点)。

この「全20市町」というのが、実はかなり珍しい状態です。空き家バンクは市町村の任意の取り組みなので、隣り合った自治体でもあったりなかったりします。人口が増えている地域では「市場で普通に売れるから要らない」という判断で置いていないところも多い。福岡県側だと、糟屋郡7町のうち空き家バンクを掲げているのは一部の町だけです。

佐賀県は、20市町すべてに置いたうえで、県が入口をまとめている。つまり県外に住んでいる所有者が、電話をかける先を自分で探さなくていい設計になっています。遠隔で動かす側からすると、これはかなり大きい違いです。

佐賀市は「代わりに相談に乗る法人」を名前まで出している

もうひとつ、佐賀市には遠方の所有者にとってありがたい仕組みがあります。空家等管理活用支援法人の指定です。

これは令和5年に改正された「空家等対策の推進に関する特別措置法」で新しくできた制度で、民間法人を市町村が指定して、空き家の管理・活用の相談窓口として公的な立場で動けるようにするものです。佐賀市はこの制度を使い、指定した法人を市の公式サイトに名前入りで公開しています(2026年8月16日時点で3法人)。

佐賀市が指定の対象としている業務は、市の説明によれば「弁護士、司法書士、建築士、土地家屋調査士、宅地建物取引士、社会福祉士等の各分野の資格を持つ者が連携して行うもの」に絞られています。つまり、名義も建物の状態も費用もまとめて相談できる先を、市が選んで公表しているということです。福岡から通わずに現地の話を進めるうえで、これは使える入口です。

それでも止まるのは、家の外側

ここまでは佐賀のいいところです。では、窓口がこれだけ整っているのに、なぜ佐賀のご実家は片付かないのか。

電話をかけた先で、ほぼ確実に聞かれる質問が2つあります。「名義はどなたですか」と「田んぼは付いていますか」です。後者でつまずく方が、佐賀は本当に多い。

田んぼ・畑は、相続登記とは別に届出がいる

佐賀平野の集落にあるご実家は、宅地だけで完結していないことがよくあります。母屋の裏に畑、少し離れた場所に田んぼ、名義は祖父のまま。相続の話をするとき、多くの方は「家と土地の名義を変えればいい」と考えますが、農地は宅地とは別のルールで動きます

農地法第3条の3では、相続などで農地の権利を取得した人は、遅滞なくその農地がある市町村の農業委員会に届け出なければならないと定められています。そして同法第69条には、この届出をしなかった場合や虚偽の届出をした場合は10万円以下の過料に処すると書かれています。

ここで押さえておきたいのは、相続登記とは窓口も根拠法もまったく別だということです。整理すると次のようになります。

手続き対象窓口根拠
相続登記の申請建物・土地(農地も含む)法務局不動産登記法(相続を知った日から3年以内・正当な理由なく怠ると10万円以下の過料)
農地の権利取得の届出田・畑市町村の農業委員会農地法第3条の3(届出を怠ると同法第69条により10万円以下の過料)

法務局に相続登記を出したから終わり、ではありません。農地が1枚でも入っていれば、農業委員会への届出が別に必要です。佐賀市の場合、窓口は農業委員会事務局農地係(電話 0952-40-7341)で、届出書の様式と記載例が市の公式サイトからダウンロードできます。郵送で出せるかどうかは市町によって運用が違うので、電話で確認してから動くのが確実です。

なお、農地を売ったり贈与したりする場合は、この届出とはさらに別に農業委員会の許可が要ります。宅地のように「買い手が見つかったから契約」とはいきません。農地が付いているかどうかで、実家の処分にかかる時間は数か月単位で変わります。だからこそ、最初に確定させておく意味があります。

納屋と敷地の木も「解体一式」に入ってくる

もうひとつ、佐賀のご実家に特有なのが付属建物の多さです。納屋、農機具小屋、離れ、風呂場だけ別棟。解体の見積もりを取ると、母屋だけのつもりが倍近い金額になって驚く、というのはよくある話です。

行政の助成制度も、この前提で作られています。佐賀市は令和8年度、危険な空き家等の解体費について、費用の2分の1・上限60万円を助成する制度を設けています(2026年8月16日時点)。この制度の対象工事は市の要綱上「空き家(付属家含む)及び敷地の樹木等の全部を解体する工事」とされており、母屋だけ壊して納屋を残す、という使い方はできません。また、市内に本店のある業者による工事であることも条件になっています。

そして遠隔の方が取りこぼしやすいのが、受付期間です。佐賀市の令和8年度の事前調査申請の受付は、令和8年5月1日から6月30日まででした。年に一度、2か月だけの窓口です。気づいたときには次年度待ち、ということが起こります。

補助内容・上限額・受付期間は年度ごとに変わり、予算上限に達し次第終了する場合もあります。申請を考える段階で、必ず佐賀市都市戦略部 都市政策課 空き家対策室(電話 0952-40-7174)など、当該市町の担当課で最新の内容をご確認ください。

佐賀の実家は売りやすいのか、売りにくいのか

正直なところを3つに分けて書きます。

1. 「佐賀県の東側は増えている」は、もう前提にできない

鳥栖や基山は福岡都市圏の通勤圏として人口が伸びてきた地域で、「あのあたりなら売れる」と思われがちです。ただ、佐賀県統計分析課の推計人口(令和8年7月1日現在)を見ると、直近1か月で人口が増えたのは基山町・小城市・玄海町・多久市の2市2町のみ。減少数の上位は唐津市、佐賀市、鹿島市、白石町と続き、鳥栖市も減少側に入っています

県全体では776,126人・321,614世帯で、前年同月と比べて5,746人の減少です。ひと月の数字だけで結論は出せませんが、「東部だから大丈夫」という前提でご実家を置いておくのは、もう安全な判断ではなくなりつつあります。

2. 買い手を探す仕組みは、むしろ整っている

売りにくい話ばかりではありません。たとえば唐津市の空き家バンクは、登録申請をすると佐賀県宅地建物取引業協会の会員が現地調査に来る仕組みで、交渉や契約も同協会を介して行う建て付けになっています。登録物件は全国から検索できる民間の空き家バンクサイトにも掲載されます。

つまり、所有者が自分で買い手を探し回る必要はありません。県外に住んでいても登録はできます。ここは佐賀の強いところです。

3. 「家より土地が広い」が値段を作りにくくする

集落の中にある敷地は、宅地部分が広く、隣が農地というケースが多くなります。福岡都市圏の買い手が求める「駅から徒歩○分・土地50坪」とは、そもそも商品が違う。だから福岡の相場感覚で「これくらいで売れるだろう」と考えると、まず合いません。ここは期待値を先に調整しておいたほうが、あとで落ち込まずに済みます。

なぜ先送りになるのか(佐賀の場合)

福岡在住のごきょうだいで話が止まる理由は、だいたい次の3つに集約されます。

  • 親御さんが「田んぼは残す」と言う。農地は先祖から預かっているものという感覚が強く、家の話と農地の話を分けて考えにくい。結果、両方まとめて止まります。
  • 誰かひとりが月イチで草を刈っている。近くに住むごきょうだいや親戚が管理を引き受けていると、危機として表面化しません。その方の負担だけが静かに増えていきます。
  • 相談先が家族の中でバラバラ。ひとりは福岡の不動産会社、ひとりは佐賀の親戚、ひとりはネットで調べる。前提が揃わないまま話し合うので、結論が出ません。

3つとも、誰かが悪いわけではありません。ただ、この状態のまま数年が過ぎると、建物は確実に傷みますし、名義人がさらに一代分増えて手続きが重くなります。

相場を自分で調べる3ステップ(福岡にいたままできます)

誰かに聞く前に、自分の手元で概算をつかんでおくと話が早くなります。3つとも自宅のパソコンでできます。

  1. 不動産情報ライブラリで実際の成約価格を見る。国土交通省が公開しているサイトで、実際に取引された価格を地域と時期で絞って確認できます。「佐賀県・佐賀市・宅地」のように条件を入れて、坪単価のレンジをつかみます。
  2. 不動産ポータルサイトで現在の売り出し価格を見る。成約価格が「売れた値段」なら、こちらは「今出ている値段」です。同じ町名で検索して、何件出ていて、どれくらいの期間掲載され続けているかを見ます。長く残っている物件が多い地域は、実際には値段が下がると考えておくほうが無難です。
  3. 固定資産税の納税通知書を出してくる。毎年4〜5月に届くあの封筒です。土地と建物それぞれの評価額、そして地目が書かれています。ここで地目が「田」「畑」になっている土地があれば、それが先ほどの農地です。何筆あるかを数えておくと、窓口での話が一気に具体的になります。

佐賀の窓口(2026年8月16日時点)

まず開くのは県のポータルで大丈夫です。そこから該当の市町にたどれます。

佐賀市の公式サイトは2026年6月1日の全面リニューアルでサイト内のアドレスがすべて変わっています。検索エンジンの結果から古いページを開くと「見つかりませんでした」と出ることがありますので、その場合は上のリンクか市のトップページからたどってください。

まず何から手をつけるか(3つだけ)

  1. 固定資産税の納税通知書を開いて、地目に「田」「畑」があるか確認する。ここが佐賀の分かれ道です。農地があるなら、相続登記とは別に農業委員会の届出が要るという前提で計画を立てます。
  2. 県のポータルで該当市町の担当課の番号を控え、1本だけ電話する。聞くことは「うちの実家は空き家バンクに登録できますか」「解体の助成の受付は今年いつまでですか」の2つで十分です。名義が固まっていなくても相談はできます。
  3. ごきょうだいに、決めたことではなく「わかったこと」を共有する。売る・残すの結論を先に出そうとすると揉めます。地目・評価額・受付期間という事実だけを先に共有しておくと、話し合いの土台が揃います。

まとめ

佐賀のご実家は、窓口の面ではむしろ恵まれています。県が20市町の担当課を1枚にまとめ、佐賀市は相談を受ける法人を名前入りで公開し、唐津市は宅建協会と組んで現地調査までしてくれる。福岡にいながら動かせる余地は、思っているよりずっと大きいはずです。

止まる場所は、家ではなく家の外側です。田んぼ・畑・納屋。ここを最初に確定させておくと、そのあとの選択肢がぐっと具体的になります。売る・貸す・そのまま持つ、どれを選ぶにしてもです。

なお、登記の申請や税務申告、法律相談は、司法書士・税理士・弁護士といった専門家の業務です。当社が行うものではありません。必要な場面では、そうした専門家や、市が指定した支援法人と連携しながら進めていくことになります。

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参照した公式ページ(2026年8月16日確認)

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