「福岡市にも空き家バンクってあるんですよね。あれに登録しておけば、そのうち誰か見てくれるんじゃないですか」
実家の相談をお受けしていると、この言い方をよく聞きます。市のホームページに「福岡市空き家バンク」というページがあるのは本当です。ただ、そこで思い浮かべられている仕組みと、実際の福岡市空き家バンクの仕組みは、かなり違います。
私たちは福岡で不動産業(宅地建物取引業)をしている会社です。売ることを勧める立場に見えるかもしれませんが、実家に関しては「まだ売らないほうがいい」「そもそも空き家バンクを使う場面ではない」と申し上げることのほうが多くあります。この記事も、登録をおすすめする記事ではありません。仕組みを正確にお伝えして、ご自身の実家がその仕組みに乗るのかどうかを判断していただくための記事です。
福岡市の空き家バンクは、自分で物件を載せる仕組みではありません
ここが福岡市のいちばん特徴的なところです。
多くの市町村の空き家バンクは、所有者が自治体のサイトに物件情報を載せ、興味を持った人から連絡が来る、という組み立てになっています。ところが福岡市は違います。市の公式ページに記載されている制度概要は、次の流れです(2026年8月15日確認、ページの更新日は2026年7月7日)。
| 順番 | やること | 誰が動くか |
|---|---|---|
| 1 | 市に空き家の物件情報を提供する | 所有者 |
| 2 | 登録事業者の中から輪番制で媒介事業者を選任する | 福岡市 |
| 3 | 選ばれた媒介事業者と媒介契約を結ぶ | 所有者と事業者 |
| 4 | 協会が運営する福岡県版空き家バンクに掲載される | 媒介事業者 |
| 5 | 売買・賃貸の交渉と契約を進める | 媒介事業者 |
つまり「福岡市の空き家バンクに登録する」というのは、実質的には市が順番に割り当てた不動産会社と媒介契約を結ぶことです。掲載先も市のサイトではなく、公益社団法人福岡県宅地建物取引業協会の「ふれんず」内、または公益社団法人全日本不動産協会福岡県本部の「ラビーネット」内にある福岡県版空き家バンクです。
そして、契約が成立すれば法定の範囲内の仲介手数料等がかかります。市の制度に登録したから手数料が無料になる、ということはありません。
この一点を知っているかどうかで、調べ方が変わります。「福岡市 空き家バンク 登録の流れ」で検索して他市町村の記事を読んでも、話が噛み合わないのはこのためです。
登録は累計9件。この数字が意味していること
市のページには登録物件の状況が公表されています。2026年8月15日時点で掲載されている数字は次のとおりです。
| 登録件数(累計) | 9件(売買9件・賃貸0件) |
| うち成約 | 8件 |
| うち募集中 | 1件 |
| 区別の内訳 | 東区1・南区2・早良区5・西区1 |
人口167万人の政令市で、累計9件です。これは制度が失敗しているという話ではありません。むしろ逆で、福岡市では普通の不動産流通が回っているので、わざわざ市の制度を通す必要がある物件が少ない、と読むほうが実態に近いと私たちは考えています。
実際、福岡市の推計人口は令和8年8月1日現在で1,672,512人・894,926世帯。前年同月と比べて3,131人(0.2%)増えています(福岡市総務企画局企画調整部統計調査課の推計人口による。令和7年国勢調査結果の速報値を基礎とした数値のため、確報値で変わる可能性があります)。人が増え続けている街では、住宅は基本的に市場で動きます。
正直なところ、福岡市の実家は「売りやすい」。ただし3つの但し書き
1. 市街化区域の一戸建てなら、空き家バンクを使う場面はほとんどない
地下鉄や鉄道の駅から歩ける範囲、あるいはバス便が確保されている住宅地の実家であれば、通常の売却・賃貸の流れで買い手や借り手が見つかることが多いです。空き家バンクに登録しても、結局は媒介事業者が普通に売ることになります。回り道になるだけ、ということが起こり得ます。
2. 市街化調整区域は、同じ福岡市内でもまったく話が違う
福岡市には市街化調整区域があります。ここは原則として建築や用途の変更が厳しく制限されていて、「誰が住めるか」に制限がついている建物も存在します。第三者が新たに住む場合、区域指定型制度を適用する地区内にあるか、指定既存集落内で線引きの日をまたいで存する住宅であるかなど、建築当時の開発許可等に関する要件を満たす必要があります。
福岡市がわざわざ「福岡市空き家活用補助金(市街化調整区域における定住化促進)」という補助制度を別に設けていること、そして空き家バンクの登録9件のうち5件が早良区であることは、それぞれ市の公表資料で確認できる事実です。この2つを並べて見ると、市内でも市場だけでは動きにくい場所があることが読み取れます。
3. マンションは、そもそも空き家バンクの対象外
福岡市空き家バンクに登録できるのは、居住の用に供する一戸建ての建築物、または店舗兼用住宅(店舗等の部分の床面積が延床面積の概ね2分の1未満のもの)です。分譲マンションは対象になりません。福岡市の実家がマンションというご家庭は少なくないので、ここで話が終わることもあります。
それでも先送りになるのは、福岡市ならではの事情があります
人口が減っている地域なら「早く手を打たないと売れなくなる」という危機感が働きます。福岡市はその逆です。値崩れの心配が薄いぶん、「まだ大丈夫」が何年も続いてしまう。
加えて、きょうだいが市内や近郊にばらばらに住んでいることが多い。全員が「いつでも集まれる距離」にいるので、かえって「今度みんなで話そう」が先延ばしになります。遠方に住んでいたら帰省のたびに話し合うのに、近いから話さない、という逆転が起こります。
そして相談先が分散しています。登記は司法書士、相続税は税理士、建物の状態は工務店、売却は不動産会社。どこに最初に行けばいいのか分からないまま、固定資産税だけ払い続ける年が積み上がります。
登録できる空き家の要件と、申請に必要な書類
それでも空き家バンクを検討する場合の要件です(2026年8月15日確認)。
| 建物の種類 | 一戸建て、または店舗部分が延床面積の概ね2分の1未満の店舗兼用住宅 |
| 使用状況 | 居住していないことが常態、または居住しなくなる予定であること |
| 状態 | 空家等対策の推進に関する特別措置法第2条第2項の特定空家等でないこと。建築基準法に基づく是正指導を受けていないこと |
| 媒介契約 | 専属専任・専任・一般のいずれの媒介契約も結んでいないこと(登録事業者と専属専任または専任を結び、契約日から1年を経過している場合を除く) |
| 権利関係 | 登記が完了し、権利関係が整理されていること。共有の場合は共有者全員の合意があること |
実家の相談で最後に引っかかるのは、たいてい下の2行です。登記が終わっていない、共有者全員の合意が取れていない。相続登記は2024年4月から義務化されていますので、まずここからになります。
申請時の提出書類は、登録物件申請書兼同意書(様式第10号)のほか、登記事項証明書の写し、固定資産税公課証明書の写し(またはこれに準ずるものの写し)、現況を確認できる写真です。店舗兼用住宅の場合は、店舗部分と住宅部分の床面積が分かる書類(建築平面図等)も必要になります。
相場は、人に聞く前に自分で3ステップ調べられます
登録するかどうかの前に、実家がいくらくらいのものなのかを自分で掴んでおくと、その後の話が全部やりやすくなります。
ステップ1:国土交通省「不動産情報ライブラリ」で成約価格を見る。実際に取引された価格が地図上で確認できます。広告価格ではなく成約価格なので、ここがいちばん現実に近い数字です。
ステップ2:不動産ポータルサイトで、同じ校区・同じ築年数の売り出し価格を並べる。これは売り手の希望価格なので、ステップ1より高く出ます。その差が「値引き交渉の幅」の目安になります。
ステップ3:固定資産税の納税通知書を出す。課税明細に土地と家屋の固定資産税評価額が載っています。土地の固定資産税評価額は地価公示価格の7割を目途に設定するものとされているため(総務省の固定資産評価基準等による取扱い)、逆算すると土地の水準の見当がつきます。
福岡市の窓口と、あわせて知っておきたい制度
福岡市空き家バンクの窓口
福岡市住宅都市みどり局 住宅部 住宅計画課 住宅計画係(福岡市中央区天神1丁目8-1 福岡市役所3階)/電話 092-711-4598。申請書類はメール・郵送・持参で受け付けています(持参の場合は平日9時30分から17時まで)。
福岡市空き家バンク(福岡市公式)
福岡市空き家活用補助金(市街化調整区域における定住化促進)
市街化調整区域の空き家について、改修工事費・設計費・家財道具等の撤去処分費などの合計額の2分の1、上限100万円を助成する制度です。申請期間は令和8年4月1日から随時募集で、予算額に達し次第終了とされています(2026年8月15日確認)。対象者や建物の要件が細かく定められているため、申請前に必ず福岡市住宅都市みどり局 地域まちづくり推進部 地域計画課(092-711-4392)で最新の内容をご確認ください。
福岡市空き家活用補助金(福岡市公式)
福岡県空き家活用サポートセンター「イエカツ」
県が設置している相談窓口です。相談員が活用・処分の提案から専門事業者とのマッチングまで対応します。福岡市中央区天神1-1-1 アクロス福岡3階(一般財団法人福岡県建築住宅センター内)/月曜から金曜の9時から17時(祝日・年末年始を除く)/電話 092-726-6210。
福岡県内の空き家対策のご案内(福岡県公式)
なお福岡県全体では、空き家の総数は約34万戸、うち賃貸・売却用の住宅や別荘等の二次的な住宅が約21万戸、その他の住宅が約13万戸とされています(令和5年住宅・土地統計調査。福岡県公式ページより)。
まず何から手をつけるか、3つだけ
- 実家が市街化区域か市街化調整区域かを確認する。ここで話が丸ごと変わります。福岡市のホームページや区役所・市役所の窓口で確認できます。
- 登記の名義を確認する。亡くなった親の名義のままなら、まずは相続登記です。売るにも貸すにも空き家バンクに出すにも、ここが済んでいないと前に進みません。
- 固定資産税の納税通知書を1枚出しておく。これがあるだけで、どこに相談に行っても話が早く進みます。
まとめ
福岡市の空き家バンクは、所有者が自分で物件を掲載する掲示板ではなく、市が輪番で不動産会社を割り当てて、通常の不動産流通に乗せるための入口です。登録は累計9件。人口が増え続けている街だから、多くの実家は市場でそのまま動きます。
ですから、福岡市の実家で本当に効いてくるのは「空き家バンクに登録するかどうか」ではありません。市街化調整区域かどうかと、登記と共有者の合意が済んでいるかどうか。この2つです。ここさえ整理できていれば、あとの選択肢はいくらでもあります。
急いで決める必要はありません。ただ、確認だけは今日できます。
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この記事で参照した公式ページ
補助制度の内容や金額は年度ごとに変わり、予算に達し次第終了する場合があります。この記事の内容は2026年8月15日時点で各公式ページを確認したものです。実際の申請にあたっては、必ず各窓口で最新の内容をご確認ください。なお、登記の手続きや税務申告、法律相談は司法書士・税理士・弁護士の業務です。当社が行うことはできませんので、必要に応じて各専門家と連携してご案内しています。

