「筑豊やけん、どうせ売れんやろ」

飯塚市や田川市に実家がある方から、この一言をよく聞きます。半分はあきらめ、半分は「そうであってほしくない」という気持ちが混ざった言い方です。

私たちは不動産会社です。だからこそ、売却をおすすめしないほうがいい実家も見てきました。この記事では「早く売りましょう」とは言いません。ただ、筑豊の実家には他の地域にない事情がひとつあって、それを知らないまま先送りすると、選べる道が減っていきます。そこだけは先にお伝えしておきたいと思います。

筑豊の実家は「制度が終わったあとに残った家」

筑豊が他の地域と決定的に違うのは、この地域を特別扱いしていた法律が、2000年代の初めに一斉に終わっているという点です。

国立国会図書館の日本法令索引で確認すると、産炭地域の振興を目的とした「産炭地域振興臨時措置法」(昭和36年法律第219号)は、同法附則の規定により平成13年11月13日に失効しています。石炭採掘による地盤沈下などの被害を復旧するための「臨時石炭鉱害復旧法」(昭和27年法律第295号)も、平成12年の法律第16号によって廃止され、平成14年3月31日に施行されました。

田川市の公式サイトにも、こう書かれています。

平成13年度末に石炭鉱害賠償等臨時措置法と臨時石炭鉱害復旧法が廃止され、無資力鉱区に関する特定鉱害については、今後、公益財団法人特定鉱害復旧事業センターにて、また、旧NEDO保有鉱区に関する特定鉱害については、JOGMECにて対応していくことになりました。

つまり、筑豊にはいま「産炭地だから」という理由で受けられる特別な枠組みは、ほとんど残っていません。残っているのは、特定の鉱害についての相談窓口と、市が独自に用意している空き家の補助金です。

これが何を意味するか。筑豊では「待っていれば誰かが何とかしてくれる」という発想が、いちばん効きません。国の枠組みが終わってから20年以上が経ち、ちょうどいま、その時代に建った家の相続が来ています。動かすかどうかは、完全にご家族の判断に委ねられている状態です。

なお、ご実家の土地に鉱害の履歴があるかどうかは、市の窓口で確認するのが確実です。田川市では土木課土木管理係が鉱害の相談窓口になっています。飯塚市の場合も、まずは市役所にお尋ねください。売却の話を進める前に確認しておくと、後から出てくる話を減らせます。

実は筑豊の実家、売りやすい面と売りにくい面が両方ある

「どうせ売れない」も「まだ大丈夫」も、どちらも正確ではありません。正直に3点、お伝えします。

1. 解体の補助金は、福岡都市圏よりはっきり手厚い

これは筑豊の強みです。あとで詳しく書きますが、飯塚市には解体費用の一部を補助する制度があり、上限額は都市圏の市町村より大きく設定されています。実家をどうにかしようと決めたとき、使える手が用意されているという意味では、動きやすい地域です。

2. 一方で、買い手の数そのものが多くない

飯塚市の人口は、市の公表によると令和8年7月末現在で123,224人、64,924世帯です。田川市は令和8年8月1日現在で43,534人、24,034世帯となっています。福岡市のベッドタウンのように、放っておいても買い手が集まってくる地域ではありません。値付けと売り出しのタイミングが、都市圏よりも結果を左右します。

3. 「建物が値段を下げている」ケースが都市圏より多い

土地には値段がつくのに、古い建物が建っていることで買い手が敬遠する。この現象は筑豊に限りませんが、築年数の古い家が多い地域ほど起きやすくなります。だからこそ解体の補助金が用意されているとも言えます。

ただし、解体すれば必ず売れやすくなるわけではありません。更地にすると住宅用地の特例が外れて固定資産税が上がる可能性があり、売れるまでの期間が読めない場合は、かえって負担が増えることもあります。判断の材料は実家の解体費用相場の記事にまとめています。

筑豊で実家の話が先送りされる理由

先送りされるのには、この地域なりの理由があります。

ひとつめは、親御さんが「この家は値段がつかない」と思い込んでいること。炭鉱が閉じてからの数十年を地元で見てきた世代ほど、この感覚が強くあります。実際には土地に値段がつくケースは珍しくないのですが、「調べても無駄」と最初から動かれないことがあります。

ふたつめは、きょうだいの多くが地元を離れていること。筑豊から福岡市・北九州市、あるいは県外に出た方が多く、集まって話す機会そのものが年に一度あるかどうか。「帰省したときに話そう」が数年続きます。

みっつめは、相談先が分かれていること。解体の補助は市の建設系の課、鉱害は土木の課、税金は税務署、登記は法務局。ひとつの窓口で全部が片づかないので、最初の一歩で止まってしまいます。

そのまま放置して建物が傷むと、市から特定空家に指定される可能性が出てきます。指定されると住宅用地の特例が外れ、固定資産税の負担が変わります。仕組みは特定空家と固定資産税の記事で解説しています。

相場を自分で調べる3ステップ

不動産会社に聞く前に、ご自身でだいたいの水準をつかんでおくと、話がぶれません。順番はこの3つです。

ステップ1 実際に取引された価格を見る

国土交通省の不動産情報ライブラリで、実際の取引価格を地図上で確認できます。飯塚市・田川市と絞り込めば、近い条件の土地がいくらで動いたかが見えます。広告の売り出し価格ではなく、成約した価格である点が重要です。

ステップ2 いま売りに出ている物件を見る

不動産ポータルサイトで、同じ地区の物件を探します。ステップ1が「売れた価格」、ステップ2が「売れていない価格」です。この2つの差が、その地区で買い手がどこまで出すかの目安になります。長く掲載されている物件があれば、その価格帯が現状に合っていないということです。

ステップ3 固定資産税の納税通知書を見る

毎年春に届く納税通知書に、土地と建物それぞれの評価額が記載されています。土地の固定資産税評価額は、公示地価のおおむね7割を目安に設定されています。この数字は、ご実家の敷地に公的にいくらの評価がついているかを知る、いちばん手近な資料です。

飯塚市・田川市の補助制度と相談窓口

ここからは各市の制度です。補助制度の内容は年度ごとに変わり、予算の上限に達し次第終了する場合があります。申請前に必ず各市の窓口で最新の内容をご確認ください。以下はいずれも2026年8月14日時点で各市の公式サイトに掲載されていた内容です。

飯塚市

制度内容窓口
老朽危険家屋の解体・撤去の補助補助対象経費の2分の1以内(上限50万円)。家財道具処分費等は対象外都市建設部 建設政策課 住環境整備係
0948-22-5515
空き家情報バンク売却・賃貸を希望する空き家の情報を市が提供する制度同上

解体の補助については、市の案内に「補助申請は、毎年度2月中旬までに工事が完了し、3月末までに全ての手続きが完了するものが対象となります」と記載されています。工事の完了時期から逆算する必要があるため、動くと決めたら早めに窓口へ相談されることをおすすめします。

詳細は飯塚市の老朽危険家屋等解体撤去補助金のページ飯塚市空き家情報バンクをご覧ください。

田川市

制度内容窓口
住宅リフォーム工事補助金令和8年度分の受付期間は令和8年4月15日から令和9年3月31日まで。上限額は工事区分ごとに異なる建築住宅課 住宅政策係
0947-85-7152
老朽危険家屋等解体撤去補助金補助対象経費の3分の1(上限20万円)。昭和56年5月31日以前に建築された木造の建築物等が対象建設経済部 建築住宅課
鉱害の相談特定鉱害の相談窓口土木課 土木管理係

田川市の解体撤去補助金については、公式ページの最終更新日が2021年3月31日となっており、令和8年度も同じ内容で実施されているかどうかは公式サイトの記載からは判断できませんでした。利用を検討される場合は、必ず市役所に現在の取扱いをご確認ください。

各制度の詳細は、田川市住宅リフォーム工事補助金田川市老朽危険家屋等解体撤去補助金田川市空き家バンク田川市の鉱害に関するページをご確認ください。

まず何から手をつけるか、3つ

1. 納税通知書を探す

ご実家に届いている固定資産税の納税通知書を1枚見つけてください。土地の評価額、建物の評価額、地番。これだけで、次に誰と何を話すかがはっきりします。

2. 鉱害の履歴を市に確認する

筑豊ならではの一手です。売却の話が進んでから出てくると手戻りになります。田川市なら土木課土木管理係、飯塚市なら市役所へ。「この地番に鉱害の記録があるか知りたい」と伝えれば通じます。

3. きょうだいに「決めよう」ではなく「調べよう」と声をかける

売る・売らないを決める話し合いは、まとまりません。「まず相場だけ調べてみない?」なら乗ってもらえます。順番を変えるだけで、止まっていた話が動くことがあります。

まとめ

筑豊の実家は「制度が終わったあとに残った家」です。産炭地を特別扱いする法律は2001年から2002年にかけて失効・廃止され、いま残っているのは各市の補助金と、特定鉱害の相談窓口だけになりました。

だからこの地域では、待っていても状況が良くなる仕組みがありません。逆に言えば、飯塚市の解体補助のように、動くと決めた人のための手はきちんと用意されています。

売る必要はありません。貸すのも、住むのも、そのまま持ち続けるのも選択肢です。ただ「何もしない」と「選ばない」は違います。納税通知書を1枚探すところから、始めてみてください。

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この記事で参照した公式ページ

  • 飯塚市「老朽危険家屋等解体撤去補助金」https://www.city.iizuka.lg.jp/site/shinsei/2051.html
  • 飯塚市「空き家情報バンク」https://www.city.iizuka.lg.jp/soshiki/46/1046.html
  • 飯塚市「人口・世帯数」https://www.city.iizuka.lg.jp/soshiki/25/1128.html
  • 田川市「田川市の人口」https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0033697/index.html
  • 田川市「住宅リフォーム工事補助金」https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0032215/index.html
  • 田川市「老朽危険家屋等解体撤去補助金」https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0037318/index.html
  • 田川市「鉱害について」https://www.joho.tagawa.fukuoka.jp/kiji0031709/index.html
  • 国立国会図書館 日本法令索引「産炭地域振興臨時措置法」https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000053298
  • 国立国会図書館 日本法令索引「臨時石炭鉱害復旧法」https://hourei.ndl.go.jp/simple/detail?lawId=0000045131
  • 国土交通省「不動産情報ライブラリ」https://www.reinfolib.mlit.go.jp/

※本記事は一般的な情報の提供を目的としたものです。登記・税務申告・法律相談については、司法書士・税理士・弁護士など各分野の専門家と連携してご案内しています。個別の判断は必ず専門家にご確認ください。