「もう疲れたので、買取でいいです」。実家の相談で、いちばんよく出る一言です。きょうだいと何度も日程を合わせ、遺品を運び出し、草を刈りに片道2時間かけて通う。そこまでやったあとで「あと3か月、買主を探しましょう」と言われると、たいていの人は首を横に振ります。
その気持ちは自然なものです。ただ、買取と仲介を「高く売れるか、早く終わるか」の二択だと思っていると、選んだあとに戸惑うことがあります。買取と仲介で本当に変わるのは、価格やスピードではなく「宅地建物取引業法があなたの側で働くかどうか」だからです。
この記事は、実家ラボを運営している株式会社トレードラボ(宅地建物取引業 福岡県知事(2)第18659号)が書いています。仲介も買取の相談も受ける立場なので、「買取は損」とは書きません。かわりに、買取を選ぶと法律が代わりにやってくれていたことが外れる、という事実だけは先にお伝えします。
買取と仲介の本当の違いは、宅地建物取引業法が働くかどうか
言葉の整理からいきます。
- 仲介(媒介)……不動産会社と媒介契約を結び、会社に買主を探してもらう。買主は多くの場合、個人の方です
- 買取……不動産会社そのものが買主になる。結ぶのは媒介契約ではなく、売買契約です
「誰が買うか」の違いにすぎないように見えます。ところが、宅地建物取引業法は媒介契約に対してだけ、たくさんの義務を不動産会社に課しています。買取は媒介契約ではないので、それらは1つも発生しません。
仲介を選ぶと、不動産会社に6つの義務が生まれる
宅地建物取引業法第34条の2が定めているものを並べます。
| 不動産会社に課される義務 | 根拠 | 売主にとっての意味 |
|---|---|---|
| 媒介契約の内容を書面で交付する | 第34条の2第1項 | 口約束にならない |
| 提示した価額の根拠を明らかにする | 第34条の2第2項 | 「なぜこの金額か」を説明させられる |
| 専任媒介契約の有効期間は3か月を超えられない | 第34条の2第3項 | 合わなければ3か月で切り替えられる |
| 指定流通機構(レインズ)へ登録する | 第34条の2第5項 | 物件情報が業界内に公開される |
| 登録を証する書面を遅滞なく引き渡す | 第34条の2第6項 | 登録された事実を手元で確認できる |
| 専任媒介なら2週間に1回以上、業務の処理状況を報告する | 第34条の2第9項 | 放置されない |
レインズへの登録期限も省令で決まっていて、専任媒介契約は締結の日から7日以内、専属専任媒介契約は5日以内です(宅地建物取引業法施行規則第15条の10。いずれも休業日は数えません)。
そして大事なのが第34条の2第10項です。同項は第3項から第6項まで、および第8項・第9項に反する特約は無効と定めています。有効期間の3か月(第3項)、レインズへの登録(第5項)、登録を証する書面の引渡し(第6項)、申込みがあったときの報告(第8項)、専任媒介での定期報告(第9項)がこれにあたります。つまり「有効期間は1年で」「報告はしない約束で」という取り決めをしても、その部分は効きません。上の表のうち第1項(書面の交付)と第2項(価額の根拠を明らかにすること)は第10項の無効の対象ではありませんが、義務であること自体は変わりません。仲介を選ぶというのは、この一式が自動的についてくる状態を選ぶということです。
さらに令和7年1月からは、レインズの登録を証する書面に二次元コードが載るようになり、売主自身がスマートフォンから「売主専用画面」を開いて、自分の物件がいまどういう状態か(公開中か、購入の申込みが入っているか、売主都合で一時停止になっているか)を確認できるようになりました。国土交通省が消費者向けに案内している内容です。
買取では、この6つがひとつも発生しない
買取は不動産会社が買主になる売買契約です。媒介契約ではないので、価額の根拠を明らかにする義務もなければ、レインズに載る場面もなく、3か月という区切りも、定期報告もありません。
これは「買取業者が不誠実だ」という話ではまったくありません。買主が自分のお金で買う値段を提示しているだけなので、法律が説明義務を課す場面ではない、というだけのことです。ただ、売る側から見ると、提示された金額が妥当かどうかを確かめる仕組みが、制度としては用意されていないという意味になります。ここを自分で埋められるかどうかが、買取を選ぶときの分かれ目です。
逆に、買取のほうが売主に有利になる場面もある
宅地建物取引業法は、売主が不動産会社のときには買主(消費者)を守る方向で働きます。第40条は、不動産会社が「自ら売主となる」売買契約について、契約不適合責任の通知期間を引渡しの日から2年以上とする特約を除いて、民法第566条より買主に不利な特約をしてはならない、と定めています。反する特約は無効です。
ここで条文をもう一度読んでみてください。「自ら売主となる」場合の規定です。買取では、不動産会社は買主です。だから第40条は働きません。
個人どうしの売買にあたる仲介では、原則として民法第566条が基準になります。買主が不適合を知った時から1年以内に通知すれば、追完・代金減額・損害賠償・解除を求められる、という条文です(売主が引渡しの時にその不適合を知っていた、または重大な過失で知らなかったときは、この1年の制限は働きません)。相手は住むために買った個人ですから、あとから雨漏りやシロアリが見つかれば、当然その話になります。築40年、50年の実家では、これが売ったあとの不安として残り続けます。
買取の場合、買主は建物の状態を織り込んで買う専門の会社です。実務上は契約不適合責任を免責とする特約が結ばれることが多く、売ったあとの責任を残さずに終えられる可能性があります。古くて状態が読めない実家ほど、買取の価値はここにあります。
ただし、免責にしたからといって何でも黙っていていいわけではありません。民法第572条により、売主が知りながら告げなかった事実については、免責の特約があっても責任を免れません。雨漏り、傾き、過去の浸水、越境、近隣との申し合わせ。知っていることは、買取でも全部先に伝えてください。伝えたうえで免責にするから、この特約は意味を持ちます。
実家で買取が向くとき・向かないときを、正直に3点
不動産会社の立場から見て、買取をおすすめしやすい実家と、そうでない実家があります。
1.期限が先に決まっているなら、買取が噛み合う
相続税の申告期限、空き家の3,000万円控除の期限、きょうだいの誰かの転勤。動かせない日付があるなら、買主を探す時間が読めない仲介より、日程が決まる買取のほうが計画を立てられます。仲介の期間の考え方は実家売却の流れ全体像で3つの区間に分けて説明しています。
2.そのままでは買主が見つかりにくい家は、買取のほうが現実的
再建築ができない土地、接道が2メートルに足りない土地、傾斜地、残置物が多い家、雨漏りが続いた家。仲介に出しても反応がないまま数か月が過ぎ、値段を下げていくだけになることがあります。専門の会社は解体や改修を前提に見積もるので、金額はつきます。
3.売れる立地の家を急いで買取に出すのは、もったいない
逆に、駅からの距離があって、更地にすれば住宅が建つ土地なら、仲介に出す価値があります。買取価格は、買った会社が改修や解体をして、保有しているあいだの費用を負担し、売れ残るかもしれない期間の危険も引き受けたうえで、利益を残せる金額として組み立てられます。その差は本来、家の状態と立地から生まれるものです。「疲れたから」だけを理由に差を手放すのは、あとから悔いが残りやすい選び方です。
なお、買取価格が仲介の相場の何割になるかについては、公的な統計として集計されたものがありません。実家ラボでは裏の取れない数字は書かない方針なので、「何割」という目安はあえて示していません。かわりに、次の章の3ステップで自分の実家の相場そのものを掴んでください。
税金は、令和6年からどちらの売り方でも3,000万円控除を狙えるようになった
相続した実家を売るときによく使われるのが、被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除、いわゆる空き家の3,000万円特別控除です(国税庁 タックスアンサー No.3306。以下は2026年8月26日時点の内容です)。
- 対象は平成28年4月1日から令和9年12月31日までの譲渡
- 相続の開始があった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
- 令和6年1月1日以後の譲渡で、相続または遺贈により取得した相続人の数が3人以上のときは、控除額は2,000万円まで
この特例で、買取と仲介の選び方に効く改正が令和6年に入りました。譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に、一定の耐震基準を満たすこととなった場合、または家屋の全部の取壊し等を行った場合も対象になるという要件です(令和6年1月1日以後に行う譲渡に限ります)。
それまでは、売主側が引き渡す前に解体または耐震改修を済ませておく必要がありました。解体費用を先に自分で出してから売る、という順番だったわけです。いまは引き渡したあとに解体されても、翌年2月15日までに終わっていれば要件を満たせます。解体を前提に買う会社に売る買取と、素直に噛み合う改正です。
ただし、この特例には市区町村長が交付する「被相続人居住用家屋等確認書」など、そろえる書類がいくつもあります。要件も年度で見直されます。売り方を決める前に、必ず税務署または税理士に確認してください。実家ラボを運営する株式会社トレードラボは宅地建物取引業者であり、税務申告の代理は行いません。税理士・司法書士と連携してご案内する立場です。制度の全体像は空き家の3,000万円特別控除にまとめています。
それでも「どちらか」を決められないまま止まる理由
相談を受けていて感じるのは、多くの家が「買取か仲介か」で止まっているのではない、ということです。止まっているのは、その手前です。
- 名義がまだ親のまま。相続登記が済んでいないと、そもそもどちらの方法でも売れません。相続登記は令和6年4月1日から申請が義務化されています(相続登記の義務化)
- きょうだいの意見が割れている。「早く終わらせたい人」と「安く手放したくない人」がいて、買取と仲介の対立に見えているだけということが多くあります
- 親の家財がまだ残っている。仲介は原則として片づけてから、買取は残したままでも相談できる。この差が実は判断を左右しています
買取と仲介の比較を先にやると、この3つが宙に浮いたままになります。順番としては、名義と家族の合意を先に片づけたほうが、結局は早く終わります。
相場を自分で調べる3ステップ
買取の金額が妥当かどうかを判断するのに、いちばん効くのは「自分の実家の相場を自分で持っていること」です。3つだけやってみてください。
- 不動産情報ライブラリで、実際に成立した取引価格を見る。国土交通省が運営していて、地域と種類を選ぶと過去の取引価格が地図の上に出ます。売り出し価格ではなく、実際に売買が成立した価格です
- 不動産のポータルサイトで、同じ町名・同じくらいの土地面積の売り出し中の物件を10件ほど並べる。これは売主側の希望価格なので、1のほうが実態に近いという前提で見ます
- 固定資産税の納税通知書を出して、土地の固定資産税評価額を確認する。評価額はおおむね公示価格の7割程度を目安に定められています。ここから逆算すると、極端に外れた金額かどうかの当たりがつきます
この3つを持ってから買取の提示を聞くと、質問が具体的になります。「解体費をいくらで見込んでいますか」「再販までにどれくらいの期間を想定していますか」。答えられる会社かどうかで、任せていい相手かがわかります。
買取を選ぶなら、法律の代わりに自分でやること3つ
仲介では宅地建物取引業法が担ってくれていたことを、買取では自分の手で埋めます。難しいことではありません。
- 価格の根拠を口頭ではなく書面でもらう。仲介なら第34条の2第2項で説明させられますが、買取では義務がありません。だから「お願い」として頼みます。断られたら、それも判断材料です
- 2社以上に見てもらう。レインズに載らない以上、比較の相手を自分で作るしかありません。同じ資料を渡して、同じ条件で聞いてください
- 知っていることを全部書き出して渡す。雨漏り、傾き、浸水、越境、境界の未確定、近隣との申し合わせ。民法第572条があるので、隠したことは免責特約があっても残ります。書いて渡した控えを手元に置いておくと、あとの安心がまるで違います
なお、「買取」という名前で案内されていても、実際には買取を保証しながらまず仲介で売り出す形(買取保証付き仲介)のこともあります。この場合は媒介契約を結ぶので仲介手数料が発生します。結ぶのが媒介契約か売買契約かを最初に確認してください。仲介手数料の上限は法律に基づく告示で決まっていて、たとえば物件価格1,000万円(税別)なら依頼者の一方から受け取れるのは39万6,000円(税込)までです。物件価格800万円以下の宅地建物については、令和6年7月1日から「低廉な空家等」の特例があり、原則の上限を超えて受け取れますが、その場合も上限は33万円(税込。30万円の1.1倍)以内です(2026年8月26日時点。国土交通省の案内による)。
まとめ
- 買取と仲介の違いは「高いか早いか」ではなく、宅地建物取引業法第34条の2が働くかどうか。仲介では書面交付・価額の根拠の明示・3か月の上限・レインズ登録・登録証明書の引渡し・定期報告がついてくる
- 買取は売買契約なので、その6つは発生しない。かわりに自分で価格の根拠を求め、比較の相手を作る
- 買取では不動産会社が買主なので第40条は働かず、契約不適合責任を免責にできる余地がある。古い実家ではこれが大きな利点になる
- ただし民法第572条により、知りながら告げなかった事実は免責されない
- 空き家の3,000万円特別控除は、令和6年1月1日以後の譲渡なら、引渡し後その年の翌年2月15日までの取壊し・耐震改修でも要件を満たせる(要件と書類は税務署・税理士に確認)
どちらが正しいという話ではありません。期限があるのか、家の状態が読めないのか、まだ名義が動いていないのか。実家ごとに答えは変わります。急いで決めなくてかまいません。
よくある質問
Q. 買取だと仲介手数料はかからないのですか?
A. 不動産会社が直接の買主になる買取では媒介契約を結ばないため、仲介手数料は発生しません。ただし「買取保証付き仲介」のようにまず仲介で売り出す形は媒介契約なので手数料がかかります。結ぶ契約が媒介契約か売買契約かを最初に確認してください。
Q. 専任媒介契約を結ぶと、途中でやめられなくなりますか?
A. 専任媒介契約の有効期間は3か月を超えることができません(宅地建物取引業法第34条の2第3項)。これより長い期間を定めても3か月になります。更新は依頼者の申出でできますが、更新後も3か月が上限です。
Q. 売り出したのに反応がありません。値下げするしかないですか?
A. 値下げの前に、レインズの登録を証する書面を確認してください。令和7年1月から二次元コードが載っていて、売主専用画面で自分の物件が公開中か、購入の申込みが入っているかを確認できます。専任媒介なら2週間に1回以上の業務報告も義務です(同法第34条の2第9項)。
Q. 買取だと、売ったあとに雨漏りが見つかっても責任を負わずに済みますか?
A. 契約不適合責任を免責とする特約を結んでいれば、原則として責任は残りません。ただし民法第572条により、売主が知りながら告げなかった事実については免責されません。知っていることは契約前にすべて伝えてください。
Q. 先に解体しないと空き家の3,000万円控除は使えませんか?
A. 令和6年1月1日以後に行う譲渡であれば、譲渡の時からその譲渡の日の属する年の翌年2月15日までの間に家屋の全部の取壊し等または一定の耐震基準を満たすこととなった場合も要件を満たせます。ほかに相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までの売却、売却代金1億円以下などの要件があり、書類も必要です。適用の可否は税務署または税理士にご確認ください。
この記事で参照した一次ソース
- 宅地建物取引業法(電子政府の総合窓口 法令検索)
- 宅地建物取引業法施行規則(同上)
- 民法(同上)
- 国土交通省「<消費者の皆様向け>不動産取引に関するお知らせ」
- 国税庁 タックスアンサー No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ
制度の内容は年度で変わり、予算に上限がある制度は受付が早く終わることもあります。実際の手続きの前に、必ず上記の公式ページと窓口で最新の内容をご確認ください(本文の記載は2026年8月26日時点のものです)。
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