「仏壇があるけん、まだ動かせんとよ」。実家をどうするかという話になると、最後にこの一言が出てきて、そこで会話が止まる。ご相談を受けていると、本当によく聞く言葉です。
不思議なのは、そう言うご家族のほとんどが、仏壇そのものに困っているわけではないことです。困っているのは「何から手をつけて、どの順番で進めればいいのか分からない」こと。そして順番が決まらないまま、家全体が何年も止まってしまう。
この記事では、実家の遺品と仏壇を「どう片づけるか」ではなく「どの順番で片づけるか」を整理します。片づけの手順そのものより、順番のほうがずっと大事だからです。
後戻りできないのは「手放す」ときだけ
実家の片づけは、大きく4つの作業に分けられます。探す、分ける、供養する、手放す。このうち、やり直しがきかないのは最後の「手放す」だけです。
探すのは何度でもやり直せます。分けたものを分け直すこともできます。ところが処分してしまったものは戻ってきません。通帳や権利証、保険の証書、写真。あとになって「あれはどこにいった」となるものは、たいてい処分の段階でまとめて消えています。
つまり、片づけで本当に気をつけるべきなのは全体ではなく最後の一手です。ここを最後に回すだけで、片づけの怖さはかなり減ります。「全部きれいにしてから考えよう」と思うから動けなくなるのであって、順番を先に決めてしまえば、途中で止まっても損はしません。
私たちは不動産会社です。だからこそ、売ることを急がせない立場でお伝えできることがあります。片づけを終える前にできることは、思っているよりずっと多いのです。
片づけが終わる前でも進められること、3つ
「まず家を空にしないと、不動産屋には相談できない」と思い込んでいる方が非常に多いのですが、実際にはそうではありません。片づけと並行して進められることが、少なくとも3つあります。
1. 荷物が残ったままでも査定はできる
家の価値を左右するのは、土地の広さ、道路との関係、建物の構造や築年数、周辺の取引状況です。押し入れの中身は評価に影響しません。家財が残った状態で見てもらってかまいませんし、そのほうが「この家具は残しても大丈夫か」といった相談も一緒にできます。
2. おおよその相場は自分で調べられる
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、実際の取引価格や地価公示を地図から見ることができます。誰かに連絡する前に、自分の目で近所の水準を確かめておくと、あとで示された金額が高いのか安いのか判断できるようになります。
3. 名義と権利の状況は先に確かめておける
誰の名義になっているか、相続人が何人いるか。ここが整理されていないと、片づけが終わっても次に進めません。片づけの合間に確認しておくと、あとの動きが速くなります。
なお、相続の放棄を検討されている場合は、遺品に手をつける前に弁護士や司法書士へご相談ください。片づけの進め方が、その後に選べる手続きに関わってくることがあります。私たちは不動産の会社ですので、この点についての判断はお答えできません。
なぜ、何年も先送りになるのか
先送りの理由は、たいてい「忙しいから」ではありません。もっと具体的な、3つの詰まりがあります。
ひとつめは、決める人が決まっていないこと。きょうだいが何人かいると、誰も「捨てていい」と言い出せません。言った人が後で責められる構図になるからです。
ふたつめは、仏壇や位牌の扱いに正解が見えないこと。宗派や地域によって考え方が異なるうえ、家族のあいだでも受け止め方が違います。判断がつかないまま、その部屋だけ手つかずになります。
みっつめは、相談先が分かれていること。片づけは業者、名義は司法書士、税金は税理士、家の値段は不動産会社。窓口がばらばらなので、どこから電話すればいいのか分からず、結局どこにもかけない。
この3つは、どれも「気持ちの問題」ではなく段取りの問題です。段取りは、順番を決めれば解けます。
「探す→分ける→供養→手放す」の順番で進める
第1段階:探す(処分の前に、必ず先に)
まず、探すことだけをします。捨てる判断はいっさいしません。通帳、印鑑、権利証、保険の証書、年金や医療の書類、遺言書らしきもの。これらは仏壇の引き出し、たんすの奥、封筒の束のあいだから出てくることが多いものです。
見つけたものは、中身を見なくてかまいません。ひと箱にまとめて、その箱だけは業者にも触らせない場所に置いておきます。
第2段階:分ける(3つの山に分けるだけ)
次に、家じゅうのものを「残す」「手放す」「保留」の3つに分けます。ここで大事なのは、保留の山をつくることです。迷ったものを無理に決めようとすると、そこで手が止まります。保留は逃げではなく、進むための置き場です。
この段階まで来たら、きょうだいに写真を送って共有しておくと、あとの「聞いてない」が減ります。
第3段階:仏壇・位牌は、菩提寺に相談してから動かす
仏壇や位牌、神棚の扱いは、宗派や地域によって考え方も呼び方も異なります。何が正しいかを私たちが決めることはできません。まずは菩提寺に、どちらの寺か分からなければお近くの寺院や、仏壇を求めた仏具店に相談してください。
相談の順番として、この段階は「手放す」より前に置いてください。先に片づけ業者を呼んでしまうと、判断がつかないまま運び出されてしまうことがあります。
第4段階:手放す(ここではじめて後戻りできなくなる)
ここまで済んで、ようやく処分です。自治体の粗大ごみに出すか、業者に依頼するか。量が多ければ業者、数点なら自治体、という分け方が現実的です。
福岡市の場合:仏壇は「供物台を除く」で申し込む
自治体に出す場合、ここでつまずく方が多いので具体的にお伝えします。
福岡市の粗大ごみは、市が公開している収集品目一覧に載っている品目であれば、インターネットからも申し込めます。同ページには「一覧にない品目については、インターネットからの受付はできません」と明記されています。
2026年8月30日に確認した時点で、この一覧には「仏壇(供物台を除く)」が載っています。高さが1メートル未満か以上か、横幅が1メートル未満か以上か、燃える素材か燃えない素材を含むかの組み合わせで8つに分かれていて、手数料は300円・500円・1,000円のいずれかです。手数料はコンビニなどで買える粗大ごみ処理券で支払い、券もこの3つの金額で用意されています。
読み落としやすいのが「供物台を除く」という一言です。仏壇と一緒に置かれている供物台は、この品目には含まれません。一覧に別の品目としても見当たらないので、供物台も一緒に出したい場合は粗大ごみ受付センターへ電話して確認することになります。受付は月曜日から土曜日の午前9時から午後5時まで、電話番号は092-731-1153です(年末年始は休み)。
ここで気づいていただきたいのは、仏壇が「処理券を貼って出せてしまう」ものだということです。制度の側は止めてくれません。だからこそ、第3段階と第4段階の順番を先に決めておく意味があります。
なお、運び出しが難しい場合には、屋内から出してもらえる有料の持ち出しサービスもあります。対象は65歳以上の高齢者、障がい者、その他特に必要がある方(妊婦など)で、粗大ごみを所定の場所まで持ち出すことができない方とされています。こちらは申し込みが電話のみです。詳しい条件は福岡市の粗大ごみの出し方のページでご確認ください。
収集の仕組みや料金、対象品目は市町村ごとに違い、年度によって変わることもあります。福岡市以外にお住まいの実家であれば、必ずその市町村の窓口で最新の内容をご確認ください。
業者に頼むなら、契約前にこの5つを確かめる
量が多い場合は片づけの事業者に頼むことになりますが、契約をめぐる相談は各地の消費生活センターに寄せられ続けています。国民生活センターは2018年7月19日に注意を呼びかける資料を公表し、消費者へのアドバイスとして次の5点を挙げています。
| 確かめること | なぜ必要か |
|---|---|
| 複数の会社から見積もりをとる | 作業内容も料金も会社によって幅がある |
| 見積書を書面で出してもらう | 費用と作業範囲を後から確認できる |
| 料金・解約料・作業内容を事前に確認 | 当日の追加請求を避けるため |
| 残すものと手放すものを分けておく | 大切な品が処分される事故を防ぐため |
| 困ったら消費生活センターに相談 | 個別のトラブルに窓口がある |
4つめが、この記事でお伝えしてきた順番の話とそのまま重なります。第1段階と第2段階を先に済ませておけば、業者選びの失敗はかなり防げます。詳しい相談事例は国民生活センターの公表資料で読むことができます。
まず何から手をつけるか、3つ
順番が決まったら、最初に手をつけるのは次の3つです。
- 探すだけの日を半日つくる。捨てる判断はしません。書類と印鑑と通帳をひと箱に集めるところまでです。
- 菩提寺に電話する。仏壇の話は、家族で話し合うより先に、まず宗派の考え方を聞いたほうが早く進みます。
- 荷物が残ったままで、家の目安を聞いてみる。片づけの見通しが立つ前でもかまいません。むしろ、片づけ方の相談も一緒にできます。
実家が空き家のまま長く残りそうなときは、お住まいの市町村に空き家バンクがあるかどうかも見ておくと選択肢が増えます。国土交通省が全国の空き家バンクのリンク集を公開しています。
まとめ
実家の片づけで止まってしまうのは、気持ちが弱いからではありません。順番が決まっていないからです。
後戻りできないのは「手放す」ときだけ。だから、探す・分ける・供養するの3つを先に済ませて、処分を最後に置く。そして、家を空にする前でも査定も相場調べも名義の確認も進められる。この2つを覚えておくだけで、動き出せるご家族をたくさん見てきました。
片づけの順番に迷った段階から、ご相談いただいてかまいません。何をいつ手放すかが決まっていなくても、話は前に進みます。
あわせて読みたい
実家をどうするか、1分で整理してみませんか
いくつかの質問に答えるだけで、いまのご実家に合いそうな方向が分かります。片づけの途中でも、名義がまだでも大丈夫です。

